297.簿記の基本 リースの仕訳
2017年2月5日
第5回 簿記の基本「リースの仕訳」を知ろう
多くの企業で「リース」は利用されていると思います。
リース契約内容によっては、「賃借料又はリース料/現金又は預金」で処理すれば良いものもありますが、
実は、それでは不十分な場合もあります。
今回は、そんな「リース取引」の仕訳について勉強しましょう。
1 リース取引には3種類ある
(1)ファイナンスリースとオペレーティングリース
まず、リース取引は大きく分けると「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に分けられます。
①ファイナンスリースとは
ファイナンスリースとは「カネを借りて、モノを買って、使いながら返済する」リースのことです。
リースとは言いながら、中途解約はできず、そのモノが故障した場合の費用は全額使用者が負担するなど、
買った場合とほとんど同じです。
このファイナンスリースは、さらに「所有権移転」と「所有権移転外」に分けられます。
-1.所有権移転ファイナンスリース
所有権移転ファイナンスリースとは、リース期間が満了するとそのリース物件をもらうことができます。
ローンを組んで買うのと同じですから、会計処理もローンを組んで買うのと同じ処理をします。
-2.所有権移転外ファイナンスリース
所有権移転外ファイナンスリースとは、契約したリース料をすべて支払ったあともその物件をもらうことはできません。
リース満了後も使い続けるためには、再リース料を支払うか、物件を受け取るために買取費用を支払う必要があります。
通常のリースは、ほとんどがこの「所有権移転外ファイナンスリース」です。
②オペレーティングリースとは
オペレーティングリースとは「借りているだけ」のリースです。
契約が終われば相手に物件を返却し、故障した場合は持ち主が修理費用を負担してくれます。
物件を保有しているわけでもありませんし、また借金をしているわけでもありません。ただ借りているだけです。
以上、リース取引には、①所有権移転ファイナンスリース ②所有権移転外ファイナンスリース ③オペレーティングリース の
3種類があることを理解いただけましたか。 会計処理はその経済的実態に合わせて処理する必要があります。
2 リースの会計処理
(1)所有権移転ファインナンスリースの場合
経済的には、借入をして、資産を購入した場合とまったく同じでした。だから次のように仕訳をします。
【例題】
キャッシュで購入した場合の値段:5,000,000円
リースを組んだ時の支払総額 :6,000,000円 ※120,000円を50回支払うものとします。
【取得時】
資産を負債で購入した形になります。
リース資産 5,000,000円 / リース債務 5,000,000円
リース資産はキャッシュで購入した時と同じ金額で計上します。 リース債務はリース総額ではないので注意して下さい。
【リース料支払時】
負債を現預金で返済する形となります。
リース債務 100,000円 / 現金 120,000円
支払利息 20,000円
毎月のリース額120,000円ですが、借入金の返済と同じく、元金部分と支払利息部分に分けて仕訳します。
例題は支払利息を単純化していますが、実際は毎月円単位で支払利息の金額が変動しますので複雑な計算が必要です。
【決算仕訳】
資産計上したリース資産に対して「減価償却費」を計算します。
現預金で取得した場合と全く同じ算出方法で、減価償却費を計算します。
(2)所有権移転外ファインナンスリースの場合
経済的には、借入をして資産を購入した場合と同じですが、最後はリース物件を貸主に返却しなければなりません。
そのため、残存価額をゼロとして減価償却費を計算します。
【前提】
キャッシュで購入した場合の値段:5,000,000円
リースを組んだ時の支払総額 :6,000,000円 ※120,000を50回支払うとします。
【取得時】
所有権移転ファイナンスリースと同様、資産を負債で購入した形になります。
リース資産 5,000,000円 / リース債務 5,000,000円
【リース料支払時】
負債を現預金で返済する形となります。
リース債務 100,000円 / 現金 120,000円
支払利息 20,000円
所有権移転ファイナンスリースと同様、元金部分と支払利息部分に分けて仕訳します。
【決算仕訳】
リース期間定額法という「所有権移転外ファイナンスリース」専用の償却方法で減価償却費を計算します。
減価償却費 1,200,000円 / リース資産 1,200,000円
※リース資産総額をリース期間で月数按分して、その事業年度の減価償却費を計算します。
減価償却費1,200,000円=リース資産5,000,000÷リース期間50ヶ月×事業年度12ヶ月
但し、例外も認められています。
所有権移転外ファイナンスリースは最終的には借主に返しますので、所有権移転ファインナンスリースよりも、
オペレーションリースに近い性格も持っています。そのため、次の場合には、月々のリース料を費用処理するだけの
オペレーションリースと同じ処理も認められています。
①借主が中小企業である場合
②リース期間が1年以内のリース
③リース契約1件あたりのリース料総額が3,000,000円以下の場合
(3)オペレーションリースの場合
経済的には、リース物件を契約期間の間だけ借りているだけで、資産を取得しているような実態はありません。
【前提】
キャッシュで購入した場合の値段:5,000,000円
リースを組んだ時の支払総額 :6,000,000円 ※120,000を50回支払うとします。
【取得時】
仕訳は必要ありません。
【リース料支払時】
賃借料として計上します。
リース料 120,000円 / 現金 120,000円
【決算仕訳】
特に必要ありません。
3 このように仕訳することで何が違う
リースの仕訳、特にファイナンスリースの場合は、ちょっと難しいかったですか?
しかし、わざわざこのように仕訳することで何が違うのでしょうか?
ここが理解できていないと、このように仕訳することも価値が半減します。
そこで、少し考えてみましょう。
(1)ファイナンスリースは、借金をして、金利も払いながらの、「設備投資」である
ファイナンスリースの場合は取得時に資産と負債に計上しました。
これはまさしく、借金をして設備を購入したことを表しています。
したがって、財政状況が厳しい中で設備をリースで入れるということは、1回1回の支払額は20~30万円でも、
総額にすれば何百万円もするものを、苦しい中で借り入れまでして設備投資をしたという決死の意思決定である
ということがB/Sに表示されます。
単なる賃借料の費用計上だけとは違う、事業の経営状況を表すことになります。
(2)それによって正しい財政状況が見れるようになる
上記のように仕訳をすれば、負債が増えて、固定資産も増えますから
①自己資本割合が下がります。
②当座比率等の支払能力が厳しくなります。
③固定資産割合が増えますので、資産の運用が硬直化します。
④さらに固定資産の回転率が下がります。
⑤固定比率があがりますので、設備投資の負担度が上がります。
などの症状が現れますので、それらに対する対処が求められることがわかります。
(3)収益構造の改善も目指さなければならない
月々においては、賃借料も増え、かつ支払利息も増えますから、損益的には
①営業利益が下がります。
②経常利益が下がります。
したがって、リース物件の投資による生産性の向上により、収益拡大やそれによる営業利益増益などに
結びつかせなければならないことがわかります。
このように会計を「実態に即して正しく処理をする」ということの意義は、
単に正しい決算書を作るためだけではなく、真の目的は、正しい経営状況を把握し、必要な経営判断を下すためにある
ということを理解しましょう。