309.簿記の基本 戦略経営(5)
2017年5月3日
第17回 簿記の基本「戦略的な経営に資する経理とは(5)」
第4回のまとめは
他人資本である負債の ①買掛金および仕入高の仕訳 ②流動負債と固定負債の区分け でした。
第5回は最終のまとめとなり、損益に関する戦略的な仕訳についてまとめます。
1 税抜経理をする
消費税の申告に関しては簡易課税方式と原則課税方式がありますが、本編で何度も説明しているとおり、どの方式で申告するかは
さておき、経理は税抜きで行っておく必要があります。
消費税率が3%あるいは5%時代ならいざ知らず、10%を超えようとしているのですから、企業規模を問わず税抜で経理をする
べきです。
2 損益科目はすべて内訳管理をする
売上高から売上原価、販売費及び一般管理費、そして営業外損益まで、すべて内訳管理をします。
(1)売上高、商品仕入高、材料仕入高は基本的に得意先別又は仕入先別に管理をする
売上の仕訳であれば、次のようにします。
売掛金+得意先 ¥税込金額 / 売上高+得意先 ¥税抜金額
/ 仮受消費税 ¥消費税金額
仕入の仕訳であれば、次のようにします。
商品仕入高+仕入先 ¥税抜金額 / 買掛金+仕入先 ¥税込金額
仮払消費税 ¥消費税金額
(2)その他の経費は基本的に内訳管理をする
たとえば旅費交通費であれば、次のようにします。
旅費交通費+社員名 ¥税抜金額 / 未払費用+社員名 ¥税込金額
仮払消費税 ¥消費税額
たとえば水道光熱費であれば、次のようにします。
水道光熱費+電気代 ¥税抜金額 / 未払費用+電気代 ¥税込金額
仮払消費税 ¥消費税額
水道光熱費+ガス代 ¥税抜金額 / 未払費用+ガス代 ¥税込金額
仮払消費税 ¥消費税額
水道光熱費+水道代 ¥税抜金額 / 未払費用+水道代 ¥税込金額
仮払消費税 ¥消費税額
このようにすることで、「この科目には何を入れていたのだっけ?」ということが無くなり、
非常にわかりやすくて、戦略経営に活かせる損益計算書になります。
なお、現在の会計ソフトのほとんどは試算表では内訳管理をしていても、決算書では科目単位の財務諸表に
切り換えられますので、月々の試算表はできる限り細かく内訳管理をされることをお勧めします。
細目にすればするほど、それだけ得られる情報は増えます。
3 これからの重点管理損益科目
最後にこれから重要となる損益科目について説明します。それはいうまでもなく「人件費」です。
今後、社会保険料を含めて、給与自体高めていかなくてはなりません。中小企業だからといういう甘えは通用しません。
大企業と肩を並べるわけにはなかなかいかないかとは思いますが、それなりの昇給をしていかないと、
社員さんのモチベーションを上げられなくなります。
中小企業は基本的には最初からいい人材は採れないと考えるべきだと思います。
採用した人材をいい人材にしていくことが基本的な人事戦略です。
そのためには給与水準が重要なポイントの一つになり、社員の皆さんの期待に沿える昇給もしなくてはなりません。
そこで昇給額の管理も大事なのですが、『労働分配率』あるいは『売上高人件費比率』の管理・コントロールが
大変重要になって来ます。
(1)労働分配率
労働分配率は粗利に占める人件費の割合のことを云いますが、一般的にはできれば60%程度には収めたいものです。
なお、人件費とは、給与・賞与、社会保険料(法定福利費)、厚生費、退職給付引当金などの合計です。
粗利とは、売上高から商品仕入、材料仕入、外注加工費など社外原価の合計です。
(2)売上高人件費比率
売上高人件費比率とは売上高に占める人件費の割合です。こちらは労働分配率と違い、簡単に求められるので、重宝ですよね。
業種業態でちがいますが、一般的には40%程度には収めたいものです。
なお、労働分配率にしろ、売上高人件費比率にしろ、他社を見て目標を決めるのではなく、自社の中で目標を決めることが
重要です。そうでないと社員の方に対する説得力が無くなる場合があります。
これらの数値を改善・コントロールするには、付加価値経営に切り換えていくことポイントです。
このように経理処理をすることで、いつもの試算表からさまざまな経営情報が得られることになり、
会計が『経営の羅針盤』となっていきます。
「戦略的な経営」に資する経理にするためにも、ぜひ、経営に役立つ経理をしてください。