327.380万中小企業のT/B⑥
2017年9月2日
第6回 B/S総資産「営業資産」の読み方・見方
営業資産とは、営業活動を継続するうえで発生する資産をいいます。
営業資産は売上高の増加に伴って増える傾向がありますが、会社の資金繰りを圧迫しますので、適切な管理が必要です。
1 営業資産は資産というより資金の使途だ
(1)営業資産の勘違い
受取手形や売掛金など、ともすれば会社の財産と考えがちです。
確かに、期日が来れば、その請求額が預金口座などに振り込まれてきますので、その感覚は間違いではありません。
しかし、少し観点を変えれば、商品などのモノを提供して支払いを受けていない状態なのですから、
商品やサービスには原価がかかっていることを考えれば、その原価分を自社で一時的に負担して顧客に貸しているとも
考えられます。そう考えると、資金の使途状況でもあるわけです。
ですから、棚卸資産も含め、営業資産は販売活動で使っている運転資金が「営業資産」となります。
(2)仕入債務の勘違い
同様、仕入債務に関しても勘違いがあります。
仕入債務とは商品や原材料などを手元にあるにもかかわらず、未だ支払いをしていないものをいいます。
会計上では、支払手形や買掛金として示されています。
これらは流動負債に表示されているのですから、借金(債務)であるわけですが、
観点を変えると、仕入を通じて、おカネを借りているとも言えます。
したがって、仕入債務は資金の調達でもあるわけです。
(3)営業資産と仕入債務を比べれば売買活動の要調達運転資金の額がわかる
上記の2つの債権と債務を比較すれば、売買活動に用意しなければならない運転資金額が掴めます。
営業資産(販売活動で使っている運転資金)-仕入債務(購買活動で得ている調達資金)=A(調達しないといけない運転資金)
理論的には、売買活動で必要な運転資金額はAとなります。
では、このAはどうやって集めているのでしょうか?
ひとつは営業債権の回収で手当てしているとも考えられます。しかしこれでは「自転車操業」となってしまいます。
ですから基本的には手元資金(現金・預金)としてこの程度の資金は余裕をもって持っておきたいものです。
手元資金÷A(運転資金要調達高)=X倍 ・・手元資金対運転資金倍率
このX倍が「1」であれば余裕はありませんね。余裕を持つためには6倍程度の手元資金は持ちたいものです。
実際のあなたの会社の「手元資金対運転資金倍率」は貴社の経験則によって決められるべきものです。
この経験則を持つためにも、月次試算表による経営管理は重要なのです。
さらには売上が増えればどのくらい運転資金を調達しなければならないのか?ということもわかります。
A(運転資金要達高)÷年商(万円)=X率 ・・運転資金要調達率
このX%は、売上高100万円あたりの必要な運転資金要調達高を表しています。
たとえば30%であれば、年間で1000万円売り上げを伸ばしている場合は300万円の運転資金を用意しなければなりません。
平常の経営であれば、基本的には10%前後に要調達率は収めたいところです。
(4)営業資産の保有高を管理することが重要
営業資産に関して重要な管理事項は「保有高」です。
何度も言いますが、「営業資産は財産である」という刷り込みが深いらしく、多く持っていれば安心されているような経営者が
多くおられます。
確かに無ければ無いで問題ですが、あり過ぎるのも問題です。
営業債権の保有高のチェックは、受取手形・売掛金・棚卸資産、それぞれに分けて管理する必要があります。
1.受取手形の場合
もしあなたの会社では手形は受け取ってから3か月後に回収するというということをルールにされているのであれば、
それ以上あることは問題です。つまり、手形が期日とおりに回収できていないということになります。
具体的には次のようにチェックします。
①概算法 受取手形残高÷平均日商=B日分 ⇒B日が約定以内であればOK、以上であれば未回収がある
②正確法 受取手形残高÷(平均日商×手形回収割合)=C日分 ⇒C日が約定以内であればOK、以上であれば未回収がある
③個別法 受取手形残高÷平均手形売上日商=D日分 ⇒D日が約定以内であればOK、以上であれば未回収がある
これら、B・C・Dのことを「受取手形回転期間(又回収日数)」と呼んでいます。
2.売掛金の場合
売掛金も同様です。もしあなたの会社の売掛金回収ルール以上に売掛金があるのであれば、それは問題です。
売掛金が期日とおりに回収できていないことになり、不良債権化の温床ということになります。
具体的には次のようにチェックします。
①概算法 売掛金残高÷平均日商=E日分 ⇒E日が約定以内であればOK、以上であれば未回収がある
②正確法 売掛金残高÷(平均日商×掛売上割合)=F日分 ⇒F日が約定以内であればOK、以上であれば未回収がある
これら、E・Fのことを「売掛金回転期間(又回収日数)」と呼んでいます。
3.棚卸資産の場合
棚卸資産も同様ですが、より注意して管理することが大切です。
私どもの研究ではこの棚卸資産の保有高が、黒字企業と赤字企業では大きく違うという結果が出ています。
棚卸資産の保有高は一部特殊な場合を除き、一般的には在庫切れを起こさない程度に少なければ少ないほど良いとされています。
在庫が多いと不良化したり、あるいは廃棄したり、さらには不正使用、保管場所の問題など、必ず原価アップにつながり、
資金繰りや売上総利益を圧迫します。
具体的には次のようにチェックします。
①概算法 棚卸資産残高÷平均日商=G日分 ⇒業種によって違いますが、一般的には14日以内が妥当と思われます
②正確法 棚卸資産残高÷平均日原価=H日分 ⇒同上
③詳細法 棚卸資産残高÷平均日直接原価=I日分 ⇒同上
これら、G・H・Iのことを「棚卸資産回転期間」と呼んでいます(Hは原価基準、Iは直接原価基準ということもあります)。
如何ですか、営業資産だけでも意外と経営状況を深掘り出来ることがお分かりいただけたでしょうか。
このように月次試算表を日々の経営に活かすことによって、「黒字経営」と「強い会社」つくりが可能となります。
もちろん、そのためには社長ご自身が創意工夫を図り、従業員を引っ張っていくことが必要です。
景気が悪い、優秀な社員がいない、言うことを聞かない等々、ときには愚痴をこぼしながらも経営者自身が変わることが重要です。
現在はただ一生懸命、商売・仕事をしていれば事業が継続できる時代ではありません。
それだけ世の中の変化は激しく、早くなっています。それが、高度成長後の現代、成熟社会だと思います。
ぜひ、いま一度経営というものを考え、創意工夫と実行でさらなる発展を目指しましょう。
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