412.図解 事業戦略策定 28
2019年5月10日
事業戦略策定第28回は『イノベーションのジレンマ』です。
戦略論の14回目です。
この『イノベーションのジレンマ』は、製造企業経営者にはもちろんのことですが、
食品・飲食など含め、ものづくり系の企業経営者には、是非、学んでいただきたい戦略理論の一つです。
■イノベーションのジレンマ -リーダー企業の凋落は避けられないのか
『イノベーションのジレンマ』は、
ハーバードビジネススクールのクリスチャンセン教授による『強み伝い経営』に警鐘を鳴らした経営理論です。
クリスチャンセンは、どの企業も正しく行動するがために、やがては市場のリーダシップ性を奪われてしまうといいます。
そういえばあのコダック社も、「フィルム技術を改善する」という正しい行動に終始したために、
デジタルカメラ化の波に乗り遅れ、2012年1月に米連保破産法の適用を受けてしまいました。
1 持続的イノベーションと破壊的イノベーション
クリスチャンセンは、イノベーションは二つに分けられると言っています。
ひとつは「持続的」なものであり、もうひとつは「根本的、破壊的」なイノベーションです。
(1)持続的イノベーションとは
『持続的イノベーション』とは、既存製品サービスの性能などを継続的に高める技術革新のことを指します。
一般の企業は、自社の強みである主要製品やサービスの性能・機能を引き上げるために、惜しみなく努力をします。
社員も主要製品を改善することは大きな評価となりますので、能動的に頑張ります。
いわゆる『強み伝いの経営』に、自ずと力を入れてしまうということです。
(2)破壊的イノベーションとは
一方『破壊的イノベーション』とは、大変重要な既存ヘビーユーザーではなく、ほんの一部の新しいユーザー(オーバースペック
ユーザー)に評価されることから始まる技術革新をいいます。
したがって社内では、本流ではなく亜流となりますので、会社も社員もあまり力が入りません。
しかし、いま当たり前に使われているパソコンは、メインフレーマーであるヘビーユーザーの使用から始まったのではなく、
ホビーユーザーが受け入れたことから始まったことは記憶しておくべきことです。
2 破壊的イノベーションがリーダー企業の交代をもたらす
企業は既存主要ユーザー層に対する『持続的イノベーション』を進行させなくてはならず、また社内の多くの人も、日の当たる
『持続的イノベーション』に従事することを志向するので、日が当っていない『破壊的イノベーション』に従事することを希望する
人はあまりいません。 したがって、企業は自ずと『強み伝いの経営』をしていくことになります。
すると、どうなっていくのでしょうか?
そうです、企業の硬直化や保守化が始まり出し、『破壊的イノベーション』がリーダー企業の交代をもたらすことになるのです。
『破壊的イノベーション』は、一部のユーザーだけに受け入れられるところから静かに進行し、始まるのです。
3 リーダー企業にとっての「破壊的イノベーション」の脅威
このように『破壊的イノベーション』はリーダー企業が知らないうちに始まっています。
コダックしかり、一時のIBMもしかり、そして台湾・鴻海に買収されたシャープもしかりです。
この『破壊的イノベーション』には、2通りあるといわれています。
(1)ローエンド型 破壊的イノベーション
『ローエンド型 破壊的イノベーション』とは、オーバースペック顧客を対象に起こります。
オーバースペック顧客とは、使えきれない顧客です。
リモコンやスマートフォンあるいは高級家電製品などに見られる顧客です。
多くの顧客ニーズに応えようとするにあまり、一人一人のユーザーからみれば、なんと使わない機能が多いことか!
それで高いお金を支払っています。
そこで『ローエンド型 破壊的イノベーション』は、従来品より性能などが低くて、低価格な製品サービスで参入することを指す
わけです。
(2)新市場型 破壊的イノベーション
『新市場型 破壊的イノベーション』とは、従来の製品サービスにはない性能などを提供し、新たな需要を作り出すイノベーション
をいいます。
(3)破壊的イノベーションが成立する条件・特徴
では、これら『破壊的イノベーション』が成立する条件・特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。
それは・・
①ニーズはあるが、スキルやお金がない顧客市場がある。
②このような顧客は従来品と比較しないため、従来品ほど性能が良くなくとも購入する。
③だれにでも使える。
④新しい流通経路や利用シュチュエーションを創造する。 などあげられます。
たとえば、最近注目されるものに『クラウドコンピューティング』があります。
もうサーバーを自社で持つ必要はなく、驚くほどの低価格で利用できます。
また、パソコンのスペックさえそこそこあれば、快適でもあります。
さらにメーカーや量販店経由ではなく、インターネット経由で利用ができます。
ただ、だれにでも使えるかというところに少々ネックがありますが、『新市場型 破壊的イノベーション』として成長していく
可能性は十分あります。
4 破壊的イノベーションは別組織で追求する
クリスチャンセンは、最後に、この『破壊的イノベーション』の追求の仕方について言及しています。
それは、「企業には不均等な意欲があるので、破壊的イノベーションは別組織で追求すべきだ」といっています。
多くの企業は『持続的イノベーション』と『破壊的イノベーション』を同じ組織の中で追求しようとしがちです。
それが失敗の原因だと、言っています。
なぜなら、『持続的イノベーション』は組織にとって花形ですが、『破壊的イノベーション』はまだその時点では日陰の組織である
からです。
したがって「『破壊的イノベーション』を妨げることになる」とクリスチャンセンは言っています。
『イノベーションのジレンマ』は、あまり馴染みのない経営理論かと思います。
しかし、私たちが犯しがちな「強み伝いの経営」に対して、強い警鐘を鳴らしています。
強み伝いの経営をしている以上は、いずれ、市場から退場する日が来るということです。
冷静に考えればそれはその通りで、時間が経てば明白です。
未だ「戦後直後の経営でよい」と思われている経営者は少なくはずです。
しかし、現在にあまり問題なく生きていると、そのことを自覚し、微かに起こっている変化に対して『破壊的イノベーション』に
取り掛かることはなかなかできないものです。
『コアコンピタンス・マネジメント』でも、「過去を忘れる」というフレーズがありましたが、常に革新し永続的に続く企業経営を
目指したいものです。
戦略を考えるにあたって重要なことは、『思い込み』なるものを打ち破ることです。
私たちは思いのほか、思い込みに囚われて、生活や仕事をしています。
その結果が「いま」であることを忘れてはいけないと思います。
違う結果を得たいと思うのであれば、『思い込み』を打ち破るしかありません。