447. 働き方改革 その背景と目的
2020年1月17日
これまで『働き方改革』の8つのポイントとその対応の前提となる36協定について見てきました。
これからは働き方改革への対応策を考えてみたいと思いますが、そのためにも、その前に働き方改革の背景と目的について
考えてみたいと思います。 これがわかれば、対応策も見えてきます。
第7回『働き方改革 その背景と目的』
2018年6月29日に「働き方改革関連法案」と呼ばれる、一連の労働法改正が成立しました。
一連の労働法とは、次の8労働法です。
1.労働基準法 2.労働安全法 3.労働時間等の設定の改善に関する特別措置法 4.じん肺法
5.雇用対策法 6.労働契約法 7.短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
8.労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
それらの改正によって、これまで説明してきた8つが改正のポイントとなります。
もう一度整理をすればつぎのとおりです。
1.本年4月から時間外労働すなわち残業時間の上限が中小企業に対しても規制されます。(大企業は昨年4月から実施)
2.昨年4月から有給休暇を最低でも年5日以上取らるように義務付けられました。
3.昨年4月から当日と翌日の勤務の間は10時間程度空けるように努力しなければなりません。
4.3年後2023年4月から中小企業も時間外の割増率を法定割増賃金率とおりにしなければなりません。(大企業はすでに実施)
5.昨年4月から従業員の健康を守るために産業医による健康管理をするように努力しなければなりません。
6.大企業は今年4月、中小企業は来年4月から同じ仕事であれば雇用形態に関係なく賞与など同じ待遇にしなくてはなりません。
7.昨年4月から本人と労使委員会の承諾を得れば時間等に囚われない高度プロフェッショナル制度が導入できます。
8.昨年4月からフレックスタイム制の清算期間が1ヵ月から3ヵ月に延長されました。
では、その背景には何があるのでしょうか? それによって、自ずと対策も見えてくるはずです。
1 働き方改革の背景
(1)人口の減少
もうこれはハッキリしています。 それは「日本の人口が減る」ということです。
2015年の国勢調査で初めて1億2709万5千人と、前回2010年の国勢調査と比べて96万3千人、人口が減りました。
これは大正9年(1920年)に国勢調査を実施して以来、初めてのことだったそうです。
以来、このままでは2048年には1億人を割り込み、40年後の2060年には8700万人まで減るということです。
同時に高齢化率(65歳以上の割合)もますます高まり、2060年には40%に達するという状況です。
すると様々な問題が起こり始め(すでに起こっていますが)、それを解決していく打開策を講じるためにも「経済力の維持」が
重要になって来ます。
経済力とは 一人当たりの生産性×人口 です。 人口が激減する中「一人当たりの生産性」を上げなくてはなりません。
(2)生産年齢人口の減少
人口が減れば、それに連れて生産年齢人口も減ります。
生産年齢人口とは現在、15歳以上65歳未満の年齢に該当する人口のことを指します。
生産年齢人口は上図のように、今から25年前の1995年をピークに、すでに減少に転じています。
1995年の8716万人であった生産年齢人口はこのままでは2030年には6773万人、2060年には4418万人までに減少すると
予測されています。
このままでは、40年後には1995年の半分になるということですから、当然、生産性を上げていかなければなりません。
(3)労働力の不足が露呈
したがって、AIなどによって生産性を上げるとしても、このままでは労働力不足が露呈することは避けられません。
そうなると生産性を上げるだけでは対策にならず、労働力自体を増やすとか、労働力の適正配置も促していかなくてはなりません。
労働力を増やすとは、生産年齢人口の上限定義を上げるとか、女性の活躍を促していくということです。
また労働力の適正配置とは、生産性の高い企業に労働力を集約していくこということです。
このあたりにも今回の働き方改革の背景はあると考えられます。
特に生産性の高い企業に労働力を集約していくとは、大企業に労働力を集約していくとも読み替えられ、中小企業には大きな危機感
が生じると考えられます。
2 働き方改革の目的
そこで、働き方改革の目的として、首相官邸では次のように述べています。
☆働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。
多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、
働く人の立場・視点で取り組んでいきます。
また、所轄官庁である、厚生労働省ではそれを受けて次のように述べられています。
☆一億総活躍社会の実現に向けて、働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を、
総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための
措置を講じます。
また安倍総理は2015年10月29日第1回の一億総活躍国民会議において「50年後も人口は1億人を維持する」と述べています。
これらを紐解くと今回の働き方改革の目的として、次のことが想像できます。
1.経済力の低下を防ぐ →生産性を高める →生産性の高い企業に労働力を集約させる
2.労働人口の減少を食い止める →女性や高齢者が働きやすい労働環境を作る
3.人口減少を食い止める →出生率が向上する育児環境を作る
つまり、働き方改革の柱は、割増賃金率や給与を上げられる企業に人を集約し、生産性を向上させるとともに、
多様な働き方の実現や正規非正規の待遇差解消、長期間労働の是正などよる、女性でも高齢者でもさらに男性にとっても
働きやすい労働環境の是正だと思われます。
いかがでしょうか、『働き方改革』に対応するのは非常に大変だと感じられたのではないのでしょうか?
いま中小企業を取り巻く大変革はハッキリとは見えないかもしれませんが、足元の深くでマグマのように渦巻いています。
それらに対処していくためには、会計による経営管理をしっかりすることがまず大切だと思います。
そうは思われませんか?