450.会計で経営力を高めるシリーズ 手元資金

2020年2月8日

第1回会計で経営力を高めるシリーズ『手元資金』

 

1 手元資金とは何か?

 それはご存知のとおり、「現金」と「預金」そして「売買目的の有価証券」です。

会計の学問的にはその通りなのですが、しかし実務では売買目的の有価証券を保有している中小企業はほとんどありません。

したがって、「手元資金とは、現金と預金である!」と理解して良いと思います。

 また、別名「キャッシュ」とも言われ、会計では「手元流動資産」とも言います。

この手元資金の特徴は、いつでも支払手段として使えることです。

 

 書籍などでは手元資金について次のように解説されています。

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  手元資金とは、代金の支払いなどにいつでも使用できる流動性の高い資金の総称である。

  現金や普通預金がその代表だが、満期が3か月以内の有価証券や定期預金等を加える場合もある。

  手元資金を潤沢に保有することで不測の事態に対処しやすくなるが、利子がほぼ付かないため、

  「必要以上の確保は資金効率の面で望ましくない」とされる。 

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しかし、これは上場企業など大企業に対しての解説であると理解する必要があります。

中小企業は潤沢に手元資金を持てれば、それに越したことはありません。

 

 

2 手元資金は多ければ多いほど良い

 上記の通り、多くの書籍では「必要以上持っていることは資金効率の面から望ましくない」と解説されています。

しかし、それは一般市場から資金を調達している大企業の場合に対するコメントです。

 経営者自らが資金提供をしている中小企業の場合はそうではありませんので、そのことをよく理解しましょう。

 

中小企業においては「少しでも多くの手元資金を持つことが好ましい」ということです。 

 

 

3 手元資金の常識

(1) 事業では支払が先、入金は後になる

 事業では販売するために、まず仕入れをします。 そしてそれを販売をするわけです。

したがって、現金商売でもない限り、仕入代金の支払が必ず「先」に来て、販売の入金は必ず「後」になります。

また、経費の支払や給料の支給も同じです。その期間の販売代金の入金の前に支払わなくてはなりません。

この販売代金の回収前に必要な資金のことを「運転資金」といいます。

このことは、よく覚えておきましょう。

 ですから、手元の資金は常に1カ月分程度の仕入代金や経費代金、給料支払分程度は、最低でも常に持っておかねばなりません。

その支払は本来、販売代金でしたいわけですが、後から入ってくるのでそうもいきません。

したがって、ザックリといえば、少なくとも売上1カ月分の手元資金はあるようにしなければなりません。

 これは「偶然」にそうなればよいのではなく、経営者が「そうなるように」経営しなくてはなりません。

さらに経営力を高める・強くするという意味では、2カ月分・3カ月分の手元資金はあるように努めなければなりません。

 

(2) 当期の初めの手元資金より、いまの手元資金のほうが少なければ、それは資金が不足している!

 資金管理というと、何か難しい管理をしなければならないと思い込んでいる経営者が多いようですが、そんなことはありません。

簡単に言えば、期首にあった手元資金より現在の手元資金を増やしていくように経営するということです。

 もし、現在の手元資金が期首より減っているとすれば、それはこれまでの損益ではおカネを持ち出しているということを示して

おり、期末に向けてそれを解消できる経営に舵を切らなければいけません。

なぜなら、手元資金が無くなれば、経営は続けられないからです。

 そのためには、会計で「月次決算」をすることが大切です。

月次決算を行えば、前月までで手元資金が減っているのかどうか、常にわかりますから、早めの対策を講じることができます。

これが年一決算の場合であれば、勘に基づいたこれまでの経営を繰り返していくしかありません。

 現在は「勘に基づく経営」では経営することは難しくなっています。

こう言うと誰しも頷かれるわけですが、頷くだけではなく、考え方を変えて月次決算体制にする必要があります。

 さらに月次決算をしていても、会計を丸投げしていて月次試算表を経営者が見ていなければ、それも同じことです。

月に一度、月初はじっくりと月次試算表を見る習慣をつけましょう。

それを繰り返していけば、不思議に経営の状況が徐々に見えてくるようになります。

 

(3) 順調な経営であれば必ず手元資金は増えてくる

 自社の事業が順調なのか、あるいはそうでないのか、それを判断することは簡単です。

それは手元資金が増加傾向にあれば順調ですし、減少傾向にあればそうではないということです。

順調に、かつ無理のない販売ができて、約束とおりに販売代金が回収できていれば、必ず手元資金は増加してきます。

もし、そうでないならば、いくつかのことが想像できますので、対処しなければなりません。

①売れても、販売代金の回収ができていない

②仕入が多すぎて、在庫が多く、ロスになっている

③経費の無駄遣いが多い

④安易な値引きが多い

⑤そもそも事業規模に対して売上が少なすぎる 等々

 

(4) 手元資金は自由に使っていいということではない

 手元資金が豊富にあるから自由に使っていいかといえば、そうではありません。

この中には、これから支払うべき運転資金や賞与、納税、設備投資資金などが入っていると考えなければなりません。

したがって、それらに備えて手元資金を管理することが、安定した強い経営を実現することになります。

 具体的には預金を目的別に分けることが重要です。

例えば、納税準備預金、設備投資準備預金、賞与準備預金など、資金使途別に預金を口座別管理をすることが大切です。

そのような考え方の会計を「管理会計」と呼びます。

 

4 手元資金のチェックのしかた

(1) 平均月商と比べて見る

 平均月商には赤字でなければ、仕入や経費、人件費、それに利益など全て入っています。

ですからそれと手元資金を比べることで、現在の手元資金の適正性度合がわかります。

 自社の場合どのくらいあればいいのかは各経営者が決めることですが、一般的には最低でも平均月商2~3ヵ月分の手元資金は

持っておきたいものです。 大事なことは、そうなるように「経営の舵を経営者として切る」ということです。

 

(2) 総資産と比べて見る

 総資産とは、資金(資本)で運用している会社の資産です。

健全な経営を続けていくためには「総資産の黄金比」なるものがあります。

①設備である固定資産は、総資産の50%以下に抑える

②在庫である棚卸資産は、総資産の5%前後に抑える

③売上債権は、総資産の15%前後に抑える

④残りである手元資金は、総資産の30%前後は持つ

 「総資産の黄金比」は業種業態によってもちろん違いますので、自社の黄金比を考えてみましょう。

それに基づく経営をすれば、少々の環境の変化にも負けない強い会社にできます。 

 

(3) 純資産と比べて見る

 純資産とは、自己資本ことでした。その自己資本をどのくらい手元資金で持っているのかということです。

理屈で言えば、自己資本はまず現預金に入ってきます。したがって、何も運用しなければ「自己資本=手元資金」となります。

しかし、現実的にはそこから設備投資に運用したり、在庫に運用したり、売掛金に運用したりしますので、「自己資本=手元資金」

とはなりません。

だから決算を終えた時ぐらいは、純資産と手元資金を比べて、その状況を確認しましょう。

それがあまりにも少なければ内部留保に回らず(つまり預金できず)何かしらに消えていることになっているわけですから、

そのことに気づくだけで抑制力につながります。

 できれば、自己資本の50%程度は手元資金にあるように経営したいものです。

 

 

このようなことを考えると、意外と会計は楽しいものだと思われませんか。

少しでもそのように思われてきたなら、それだけ経営力が高まって来ていることを示しています。

 楽しんで会計業務に取り組みましょう!