10.経営実績一覧表の重要性
2009年7月24日
「管理会計資料」の各論、第3回目は「経営実績・決算書一覧」について説明します。
経営危機の主な原因類型
厳しい経営環境が続きますが、会社の経営危機を事前に察知する方法はないのでしょうか。会社の経営危機の原因は主に3つに分けられます。
①人的経営危機
②取引先経営危機
③計数的経営危機
この中で会計によって事前に察知できるものは、③計数的経営危機です。ここでは①②に関して、未然に防ぐ方法を簡単に説明します。
まず、①人的経営危機ですが、大会社は別にして、いわゆる中小企業である私たちに関しては、いかに社長と社員とのコミュニケーションを高めるかです。コミュニケーションを高めるとは、会議を頻繁に行うとか社員管理を強化するとかではなく、社長が社員一人ひとりに「関心」を持っていることを各人に伝え、認識してもらうということです。具体的には「おはよう」と声をかけることから始まり、「元気にやっているか」「悩みごとはないか」など、気軽に何気ない言葉をかけることです。それに加え大事なことは、社長は何にためにこの会社をやっているかという「事業目的」を社員に熱く語ることです。それによって会社の士気は高まります。
次に、②取引先経営危機ですが、これは特定の会社との取引ウェイトを過度に高めないということです。一番単純にいえば、下請100%の経営体質は避けることです。完全下請である限りは、自社でのコントロールはできません。今回の経済危機でも最も被害を受けている中小企業の多くは大手企業の下請企業です。自社独自の営業ルートを持っている場合はこのような景気であっても、何とか6・7割程度の操業度で凌げ、かつまた努力することも可能です。しかしこのような体質改善は一朝一夕ではできませんので、長いスパンで問題意識を持ち、改善していく必要があります。
会社の経営危機には必ず、「兆候」がある
会社の財政的な、あるいは営業的な経営危機は③計数的経営危機であり、それは突然にはやってきません。必ず「兆候」があり、それがあるときから表面化してきます。表面化してからの対処は大変厳しく、外科的手術を施し、対応せねばなりません。事前に対処することができれば、処方箋だけで対応できることも可能となります。では、どうすれば事前に察知できるのでしょうか。
財政的、営業的経営危機は必ず(粉飾しない限り)会計資料に反映されてきます。ただ、月々の試算表や単年度の決算書を見るだけではなかなか気づけません。そこで重要になってくるのは時系列の「経営実績・決算書一覧表」です。時系列に見れば、おかしなところが事前に発見でき、問題を掘り下げることが可能となります。
また時系列の「経営実績・決算書一覧表」はソフトウェアで自動に作成することや社員に依頼して作成することもできますが、大事なことは、できれば社長自らパソコンを利用して作成するということです。ソフトウェアや他人に作成させた資料では目が素通りしてしまいがちです。自分で数字を入力しながらパソコンで作成すれば、その作成途中で数値の異常に気づくことが多くなります。ぜひ、時系列の「経営実績・決算書一覧表」は社長自らが作成されることを強くお勧めします。
経営実績・決算書一覧表の作り方
では、具体的にどのように作ればよいのでしょうか。
(1)どのくらいの時系列が必要か
まず、決算書は10年程度の一覧表に作成したいものです。経営実績である試算表は、事業期間単位で単月表示と累計表示を作成すれば良いかと思います。また次年度に入れば、実績・前年・予算比較で、単月表示と累計表示を作成されれば良いかと思います。
(2)BSの表示
BSは、前年と比べた「増減」と、総資産・総資本を分母にした「構成比」をつけます。「増減」によって、調達資金がどう増減し、どう運用変化しているのか、資金の流れがわかるようになります。「構成比」によって、調達資金の他人・自己割合と運用割合がわかるようになります。
(3)PLの表示
PLは、前年と比べた「前年比」と、売上高を分母にした「構成比」をつけます。「前年比」によって、成長性や費用の増減がわかるようになります。「構成比」によって、原価率や経費率、利益率などの変化がわかるようになります。
次回からは「財務分析」について説明します。どうぞ、お楽しみに・・
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