12.生産性分析の種類

2009年8月8日

生産性分析説明の前に
(1)計算することが目的ではない
あらためて言うまでもなく、財務分析は計算することが目的ではありませんよね。計算はプロセスです。計算して「当社の流動比率は〇〇.〇%だ」なんて知ってもあまり意味がありません。まず、自社の分析値を知って判断することが、第1の目的です。判断とは「問題はないのか」「問題があるのか」ということです。その判断の尺度が前回説明した、時系列比較であり、同業他社比較であり、目標比較です。この評価尺度で問題があるか、ないのか、判断することです。第2の目的は、問題解決のための打開策・打ち手を考えるということです。「悪い」と判断しただけでは何の解決にもなりません。処方箋を考えねばなりません。第3の目的は、実行することです。判断して解決策を考えただけでは会社は良くなりません。解決策を実行してこそ、問題は解決されます。したがって財務分析の目的は、「判断-打ち手-実行」することだと心得てください。
(2)数字や計算式の細かいところに捉われない
帳簿作成において円単位まで合わせることは大事なことです。しかし、財務分析の計算において、1円単位まで入力して計算することはありません。それによって、16.21%がたとえ16.22%になっても、財務分析上は全く支障がありません。その意味では会社の規模にもよりますが、千円単位あるいは万円単位で計算してもまったく問題はありません。また計算式にも公式的には平均総資産を使うとか細かいところがありますが、実務の財務分析はペーパーテストではありませんので、これもあまり意味があると考えられません。従って、分析的に数字を見るときは上から3桁程度で捉えた方が、その本質がよく見えます。その上で、これからのことをよく理解していただきたいと思います。

生産性に関する分析
生産性分析とは「当社はどのくらい多く作っているのか」ではなく、「当社はどのくらい多く売っているのか」ということです。創業期においては、売上高が計画通り増えていかないと、資金が回っていかなくなりますで、特に重要な分析(チェックポイント)となります。具体的には次のような分析値があります。
(1)一人当たり年間売上高
一人とは“従事員数”のことを指します。従事員数とは、役員・正社員・契約社員・パートなど業務に従事する全ての人数を指します。ちなみに“従業員数”とは、役員を除く、全ての非雇用者人数を指します。“社員数”とは、非正規を除く正社員・正職員の人数を指します。内部計算に当ってはその分母を統一することが肝要です。外部比較する場合は分母を確認する必要があります。
(2)一人当たり年間加工高
加工高とは限界利益のことを言います。厳密に言えば、売上高総利益(粗利益)とは違い、正味付加価値額のことを指します。具体的には商品や材料費、外注加工費などの直接原価に、どれだけの付加価値をつけたのかというのが、加工高となります。それに対し、売上総利益は売上から全部原価(直接原価に加えて、労務費や製造経費など間接原価を加えたもの)を差し引いた利益となります。なお、製造原価がない業種には、売上高総利益(粗利益)しかなく、加工高という概念はありません。実務的には売上総利益(粗利益)、加工高と言葉を使い分ける必要はない思います。
(3)加工高(粗利益)比率
売上に占める、加工高または粗利益の割合です。
(4)一人当たり年間人件費
人件費とは給料・賞与に社会保険料などの福利厚生費を加えたものです。それを従事員数で割ります。
(5)労働分配率
労働分配率とは加工高(限界利益)に占める人件費の割合です。
(6)一人当たり総資本
総資本とは、負債と純資産(会社法施行以前は資本と呼んでいたので資本でも構いません)の合計であるということを知っている人は多いと思います。では、負債、純資産とは何でしょうか?事業を始めるためには、まず、お金(資金)を準備しなければなりません。自己資金を用意したり、不足する場合は金融機関から調達するのが普通かと思います。自己資金とは純資産であり、借入金は負債です。したがって、負債のことを他人資本、純資産のことを自己資本と呼びます。つまり総資本とは事業のために調達している資金の総称であり、一人当りの総資本とは生産性の規模を表わします。但し、規模が大きければ良いというわけではありません。
(7)一人当たり有形固定資産
資産とは、調達した資金で運用している姿です。固定資産とは、資産の中でも1年以上をかけて資金化される資産であり(実際は減価償却という形で資金化されていきます)、有形固定資産とは、形のある固定資産、つまり建物や設備や土地を指します。一人当りの有形固定資産が多いということも、生産性の規模を表しますが、一人当りの有形固定資産が大きければよいということではありません。
(8)加工高設備生産性
加工高とは正味付加価値であることは説明しました。設備は何のために入れるかと考えれば、モノを作り、作った製品を売るために設備投資をするわけです。そのように考えれば、設備投資の妥当性を計るためには、その生産物の加工高で判定するのが妥当といえます。
(9)一人当たり経常利益
企業が人を雇用する究極的な目的は、多くの経常利益を得るためであるとも言えます。そのために、人の生産性を計る尺度として、最終的にはこの指標を用います。

以上、生産性に関する財務分析はこのようにいろいろなものがあります。またこれらは標準的な財務分析であり、この他にあってもおかしくはありません。ただ、毎回・毎回、このようなことを全てチェックをすることはできませんから、大事なことは「自社の生産性の課題を明らかにする財務分析は何か」ということを知る、あるいは選択するということです。そして、その選択した生産性分析によって、自社の生産性を定点観測するということです。

次回は「財務分析シリーズ(3)」として収益性分析の種類について説明します。どうぞ、お楽しみに・・

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