513.会計によるリスク管理法③ 売掛金
2021年4月30日
リスク管理観点から会計を捉えるシリーズ第3回 売掛金
ますます悪化しそうなコロナ感染状況ですが、「事業を守る経営」への舵取りが大変重要となっています。
リスク管理観点から会計を捉えるシリーズの第3回のテーマは『売掛金のリスク管理』です。
1 売掛金とは
(1)売掛金とは
売掛金とは、債権の一つであり、販売したのちに受け取る売上代金の債権です。
一般的に売掛金があれば、なにか財産があるように感じて安心している経営者が多いようですが、実はそうではありません。
現金商売を除いて、売掛金はあり過ぎても、また無さ過ぎてもいけません。
売掛金の残高は、各企業ごとに『適正な残高』が決まっているのです。
その適正量を測る指標が「売上高」です。
(2)回収ルール
売上債権の回収ルールは必ず各企業ごとにあります。
その回収ルールより多くの売掛金残高があるのであれば、経営上、問題となります。
その回収ルールとは、取引先に通知しているか、あるいは取引先ごとに決めている『入金期日』です。
もし、自社にその回収ルールがなく、そのときどきの状況で取引先と決めているとか、営業担当に任せているとか、
あるいは明確にしていないということであれば、それはリスク管理上、大きな問題です。
直ちに是正をしなければなりません。
(3)入金期限をいえない、守らない取引先
この回収ルールを、取引先との力関係などから忖度し「ハッキリ言うことはできない」という話を聞くことがありますが、
それではビジネスといえません。
仮にそのようなことを説明して、それに対して不服をいうような取引先であれば、そればどのような取引先であっても取引を止める
勇気を持たねばなりません。
なぜなら、遅かれ早かれ、その債権は不良債権となる可能性が高いからです。
また、「あるとき払いの催促なし」というルールを守らない取引先については、何度も説明して守ってもらうようにするか、
あるいは相手の事情が納得できるのであれば、それを考慮して約定を変更し、それを守ってもらうようにしなければなりません。
ともかく、「ルールに基づいた取引をする」のが『ビジネスの基本』というものです。
(4)企業は売り上げただけでは生きてはいけない
わかりやすく言うと「売る」だけでは、企業は存続できません。
売上代金を回収して、初めて、存続する『糧』を得ることになるのです。 売るだけならば、それは配っていることと同じです。
そんなビジネスの常識に対して、不満をいうような取引先とはやはり取引を止めなければなりません。
そのような姿勢を毅然と堅持することが、正常な取引先との取引を増やしていくことになり、また社内モラルも向上させていくこと
になるのです。
(5)売掛金回収状況のインジケーターは『売掛金回収期間』
では、自社の売掛金残高の適正度合いをどのようにして見ればよいのでしょうか?
それが『売掛金回収期間』です。
この売掛金回収期間は、売掛金残高を月次売上高で割ると計算できます。 ⇒ 売掛金÷月次売上高
たとえば毎月売上を25日に締めて、取引先ごとの売上を計算し、それに基づいて翌月初に請求書を発送し、同月末日までを
入金期限にしている企業があるとします。
そうすると、前月の売上金額のほとんどが、取引先がルールを守ってくれさえすれば、翌月末までに回収できることになります。
そしてそれが繰り返しされることになりますので、大雑把にいえば、毎月月末には当月分の売上高に相当する売掛金だけが残り、
翌月末にはそれが回収され、また新たに発生した当月売上高に相当する売掛金だけが翌月末に残るということになります。
つまり、売掛金÷月間売上高=約1.0となり、売掛金回収期間はだいたい1カ月『回収サイト1』ということになります。
それが、明らかにそれ以上の売掛金残高がある場合には、どこかの取引先が支払をしていないということになります。
2 売掛金のリスク管理
では、売掛金のリスク管理として、どのようなことが考えられるのでしょうか?
考えてみましょう。
(1)取引先別管理をする
まず、売掛金を取引先別に管理することが考えられます。
(借方) 売掛金 / (貸方) 売上高 100万円 という、仕訳では取引先別管理はできません。
少なくとも取引先ごとにバラして仕訳しないとできません。
すると、次のようになります。
(借方) 売掛金 株式会社A / (貸方) 売上高 株式会社A 30万円
売掛金 株式会社B / 売上高 株式会社B 50万円
売掛金 株式会社C / 売上高 株式会社C 20万円
このようにすると売掛金という科目が取引先別に管理でき、どの取引先が支払をしていないのか、一目瞭然となります。
(2)リスク管理の目的はリスクを避けること
次に、リスク管理の目的は訪れるかもしれないリスクをただ眺めるだけではなく、訪れるかもわからないリスクを避けることに
あるということからから考えれば、「どのように対処してリスクを避けるか」ということが大変重要になります。
「この取引先の入金がない!」という傍観者の姿勢だけでは未回収の状況は解決できません。
『回収の行動』を起こす必要があります。
意外と、この『回収の行動』を起こしている企業は少ないようです。 その結果、不良債権化させている企業が多くあります。
そして、多くある売掛金残高を見て安心しているというマンガのようなことが、現実には数多くあるのです。
では、この『回収の行動』はどのようにすればよいのでしょうか?
それは、一の矢、二の矢、三の矢というように、次々に放てる「対策」を持っておくということです。
それを支払されるまで、次々と講じて行きます。
第一の矢 「伝える」
まず、支払されていないことに気づいたなら、直ちに、先方へ直接伝えるということです。
ポイントは「直ちに」と「直接伝える」ということです。
気づいたら「直ち」に、電話で取引先に「お支払をお忘れになっていませんか?」「いつご入金いただけますか?」などと
聞くことです。
メールや郵送ではいけません。「直接伝える」ではないからです。
そして、そこで入金の予定を聞き、またそのタイミングで電話確認できる機会を作っておきます。
第二の矢 「担当者訪問」
一の矢で入金がない場合は、ここでヒトが動きます。
ただし、担当者だけです。上司や社長は「切り札」に取っておきます。
第三の矢 「同行訪問」
二の矢でもダメな場合は、同行訪問です。同行によって、当社の本気度と意思の強さを伝えます。
通常は「一の矢」で、ほとんどの場合、解決します。
この活動の重要さは債権回収もさることながら、取引先における自社の支払順位を上げるという効果と信用が増す効果がある
ということです。
多くの企業はこのようなことはしていません。放置です。
だからこのような行動をとると、「この会社の支払はきちんとしないといけない」という支払順位の効果や、
「この会社はしっかりしている」という信用が増す効果があるわけです。
〔ここでひと言!〕
売掛金の時効についてです。
2020年4月に民法改正があり、その第166条によって、売掛金の時効は次のように二つに分かれることになりました。
①2020年3月以前に発生した売掛金の時効は、その支払期限から数えて「2年」
②2020年4月以降に発生した売掛金の時効は、その支払期限から数えて「5年」 ※だからいまは5年です!
例えば、2020年9月に商品を納品し、代金は末締めの翌月末日払(つまり、10月末)という場合は、
その支払期限から5年経った2025年10月末が時効期限となります。
その時効を延ばすためには「支払督促をする」ということです。督促をすればそこからまた5年と、次々と期限が延長されます。
大企業が毎年決算月に「残高確認書」を発行する理由は『時効』を延ばす意味があったのです。
つづく・・
戦略を考えるにあたって重要なことは、『思い込み』なるものを打ち破ることです。
私たちは思いの外、『思い込み』に囚われて生活や仕事をしています。
そしてその結果が「いまである」ということを忘れてはいけないと思います。
違う結果を得たいのであれば、『思い込み』を打ち破るしかありません。
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