518.会計によるリスク管理法⑨ 純資産

2021年6月12日

リスク管理観点から会計を捉えるシリーズ第9回 純資産

 

 ワクチン接種もようやくどんどん進み出し、オリンピック・パラリンピック開催に向けてまっしぐらの様相ですが、

オリパラアフターの状況は誰も明言せず、不透明な状況です。人流による影響やウイルス変容による影響は、その時に

なってみないとわからず、このことを「リスク」と言わなけれれば、何を「リスク」と言えばよいのでしょうか。

いずれにせよ、生活や経営に対してどのような悪影響をもたらすのか予測することが難しく、いま「守りの経営」への

舵取りが重要となっています。

 リスク管理観点から会計を捉えるシリーズの今回は、『純資産のリスク管理』を取り上げます。

 

1 純資産とは

 純資産とは、自己資本のことです。会社自身(*)で捻出している資本のことです。

 *自己資本の自己とは、社長・オーナーのことではありません。会社です。

  企業は公器であり、企業は社長・オーナーを含めて、社員全員のものです。

 

 純資産の主な項目は、書式によって少し違いはありますが、

シンプルにいえば、「資本金」「繰越利益剰余金」「当期純損益金額」です。

資本金とは、株主(中小企業の場合はほとんどが経営者ですが)が出資した資金です。

繰越利益剰余金とは、前期まで事業で稼ぎ出した利益です。

当期純損益金額とは、今期営業活動の損益です。

繰越利益剰余金と当期純損益金額を合わせて「利益剰余金」といいます。

 ですから、純資産の中身は「資本金」と「利益剰余金」です。

 

 事業は社会のニーズに応じて展開するものと考えれば、

当期純損益金額や利益剰余金が△ということは、素直に、事業の見直しをしなければならないことを示していると理解できます。

 

 

2 「純資産」のリスク管理

 では、そんな「純資産のリスク管理」をどのように考えればよいのでしょうか?

これはただ一つ、自己資本比率です。

 

(1)自己資本比率とは?

 むずかしいものではありません。事業に費やしている資金のうち、どのくらいを自己資本で賄っているのかということです。

  自己資本比率 = 総資本(負債+純資産) ÷ 純資産 ×100

これは皆さんもよくご存知の算式です。

経営的には、自己資本比率は高ければ高いほど、安全性は高くなります。

その極端な事例が「無借金経営」と呼ばれる経営です。

 

 経産省のホームページでは次のように説明されています。

自己資本比率は、企業が借り入れた資本と、自己調達した資本を比較したもので、財務の安定性を示します。

大企業の場合は、金融機関などからの借入や社債発行のほか、株式発行による直接的な資金調達が可能ですが、

中小企業の場合は、金融機関などからの借入に依存せざるを得ないことから大企業に比べて自己資本比率は一般的に低くなります。

 *市場から直接資金調達することを「直接金融」、金融機関から資金調達することを「間接金融」といいます。

 

 では、各企業の自己資本比率はどの程度なのか、さらに経産省のホームページから引用します。

製造企業における自己資本比率(法人企業)

     *中小企業の製造業は、自己資本比率が30%以下であることがわかります。

卸売企業における自己資本比率(法人企業)

     *中小企業の卸売業は、自己資本比率が20%以下であることがわかります。

小売企業における自己資本比率(法人企業)

     *中小企業の小売業は、自己資本比率が15%以下であることがわかります。

 

こうやって見てみると、設備投資が少ない企業ほど自己資本比率が低いことがわかります。

そして、多くの中小企業は、だいたい自己資本比率が20%から30%であることがわかります。

しかし、どの企業も最初は自己資本比率100%から始まっているです・・。

 

 次に分布を見てみます。

製造企業における自己資本比率の分布(法人企業)

     *平均は30%前後でしたが、件数的には15%以下が約半数を占めることがわかります。

卸売企業における自己資本比率の分布(法人企業)

     *平均は20%前後でしたが、件数的にはやはり15%以下が約半数を占めることがわかります。

小売企業における自己資本比率の分布(法人企業)

     *平均は15%前後でしたが、件数的に一番多いのは5%未満であることがわかります。

 

 このように見ると、多くの中小企業が事業を続けていく中で、大きく自己資本比率を減らしていることがわかります。

その原因は何なのでしょうか?

理由はさまざまかもわかりませんが、原因は赤字経営、採算が取れない経営を続けているということです。

しかし一方、少なくはなりますが、自己資本比率50%以上の中小企業もそこそこあることもわかります。

同じ経営環境の中にあって、この差は何なのでしょうか?

 

それは経営力、経営の舵取り、リーダーシップです。

だから、やればできる! その可能性を示しています。

 

(2)債務超過とは?

 ここで、債務超過について説明します。

企業は生まれた瞬間、どの企業でも自己資本比率100%から始まっているのです。

つまり、資本金で企業が誕生するというということです。

 そして、多くの場合、創業資金等の名目で金融機関から融資を受けます。

そうすると、自己資本比率は下がりますが、それでも50%や33%程度はあろうかと思われます。

つまり、もともとは33%から50%程度から事業を始めているわけですが、

上記の「自己資本比率分布表」を見れば、多くの企業が何年かで、10%~20%程度の自己資本を減らしているわけです。

 したがって、多くの中小企業はそこを謙虚に認め、「経営改善」に取り組まなくてならないということです。

 

ぜひ、できる経営改善から取り組みましょう!

 

 さらに自己資本比率が下がると、やがて0%、あるいはマイナスになっていきます。

このマイナスの状態のことを「債務超過」といいます。

自己資本比率がマイナスということは、自己資本がゼロ以下ということであり、算式的には次のような状態です。

 総資産 ー 負債 = △純資産

つまり、「負債に見合うだけの資産がない!」とことです。

家計でいえば、たとえ立派な戸建てに住んでいようが、それ以上の借金があるということです。

これではいつ売却しなくてはならないか、心配でなりませんし、仮に売却したとしてもまだ借金が残るということです。

これではいけないことが、よくわかると思います。

ただし、突然、債務超過になるというよりは、徐々に徐々に自己資本比率が下がっていき、やがて債務超過になることが

圧倒的に多いということです。

 だから日頃、もっと自己資本比率に関心をもって、素直に経営を改めることが大切です。

 

 日頃の自己資本比率にもっと真剣な関心を寄せて、素直に経営をあらためる姿勢が大事!

 

(3)自己資本比率の改善策

 では、自己資本比率を改善するには、どのような方法があるのでしょうか。

それは、たった一つ、『黒字経営』に転換することです。

冒頭の「利益剰余金」の算式は、繰越利益剰余金に当期純損益金額プラスするという算式です。

債務超過とは、まず繰越利益剰余金が欠損状況になっており、かつ資本金を上回る欠損状況になっているということです。

したがって、当期純損益金額で繰越欠損金を徐々に減らし、資本金より少なくなれば、債務超過は解消されて行きます。

だから、黒字経営を続けるしかありません。

 

 しかし、赤字経営から黒字経営に転換するためには『総力戦』です。

少ないながらも従業員の皆さんにも力を貸してもらい、これまでの考え方を全員で考え直し、その慣れないビジネススタイルで

事業を継続していくことが重要です。

 また債務超過になっていなくとも、その予備軍的な中小企業は数多くあります。

それらの企業も同じです。債務超過となる前に、少ないながらも従業員全員に力を貸してもらい、

これまでの考え方を全員であらため、慣れないビジネススタイルで事業を継続していくことが必要です。

 

幸いなことに中小企業のⅤ字回復事例は大企業よりも多くあります。

考え方を改めよう 中小企業!

 

つづく・・

 

 

戦略を考えるにあたって重要なことは、『思い込み』なるものを打ち破ることです。

私たちは思いの外、『思い込み』に囚われて生活や仕事をしています。

そしてその結果が「いまである」ということを忘れてはいけないと思います。

違う結果を得たいのであれば、『思い込み』を打ち破るしかありません。

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