522.荒波に耐える財務体質の強化(2)
2021年7月8日
前回は「B/Sの構造」を説明し、「健全な財務体質とは『黒字経営』と『現預金の増加』です」と解説しました。
今回は、どのようにして『黒字経営』と『現預金の増加』を成し遂げるのか、について考えたいと思います。
1 黒字経営と現預金の増加は別の問題です
多くの経営者は、黒字経営を続ければ、手元資金である現預金は増加すると考えているのかもわかりません。
しかし、黒字経営を続けていれば、必ず現預金は増えるのかといえば、それはそうでもないのです。
事業が現金商売であれば、「黒字経営=現預金は増える」といえますが、多くの企業は信用取引による事業をしています。
したがって、黒字経営イコール現預金の増加ということに関しては、まだ「絵に描いた餅」の段階なのです。
売上債権がすべて回収できて、ようやく「絵に描いた餅」が食べられるお餅になります。
このことをよく理解しましょう。
つまり、極論をいえば、損益計算書上はいくら黒字であっても、売掛金が全く回収できなければ、売上代金はゼロなのです。
「黒字経営」と「手元資金の増加」は別物だ!
2 黒字経営にするためには
そのことを理解したうえで、「黒字経営」について考えてみましょう。
黒字経営とは、最終利益である『経常利益』がプラスであることをいいます。
そこで、管理会計の損益計算書である「直接原価損益計算書」を思い出してください。
売上高ー直接原価=「限界利益」ー人件費=「達成利益」ー固定費=「営業利益」±営業外損益=「経常利益」
この算式をみると、最終の経常利益を黒字又は増加させるためには、
1.最初の水である「売上高」を増やせばいい
2.真水である各段階の利益を増やせばいい ことがわかります。
そうすれば、最終の「経常利益」は、黒字又は増加させられることになります。
つまり、言い方を変えれば、「売上高を増やす」あるいは「直接原価・人件費・固定費を減らす」かのいずれか又は両方が
最終の経常利益を黒字又は増加させるためには必要であることがわかります。
しかし、人件費に触れることは最終手段ですので、基本的には「売上を増やす」「直接原価・固定費を減らす」の2つになります。
黒字経営にするためには売上を増やすか、直接原価・固定費を減らすか、そのいずれかだ!
3 売上高を増やすためには
では、売上を増やすためにはどう考えればよいのでしょうか。売上は「単価×数量」という算式で表されます。
単価が上がれば、数量は同じでも売上は増えます。つまり、このことを「付加価値を上げる」ことを示しています。
一方、数量が増えれば、単価が同じでも売上は増えます。つまり、このことは「販売効率を上げる」ことを示しています。
売上を増やすためには 「付加価値アップ」か「販売効率アップ」 のいずれかである!
さらに売上の拡大は、単価か数量か、いずれかで考えるのではなく、現実はミックスして考えます。
そんな販売戦略として参考になるのが、今や古典といわれることもありますが、「アンゾフの成長マトリクス」です。
※アンゾフの成長マトリクスについては、162、221、311、366、などをコラムを参照してください。
その中の『市場浸透戦略』は、数量アップ作戦です。
如何にして既存の顧客に現商品・製品・サービスをもっと浸透させるのか? ということです。
それに対して、『商品開発戦略』は、付加価値アップ作戦です。
如何にして既存の顧客に新商品・製品・サービスを販売促進して行くのか? ということです。
それが出来て、初めて次の段階の『新市場開拓戦略』あるいは『多角化戦略』に入って行けます。
一度、戦略家になった気分で、アンゾフの成長マトリクスをもとに、どうしたら現市場に現商品のシェアや浸透を図れるのか、
どうしたら現市場に新商品の提案ができるのか、などを考えてみてはいかがでしょうか。
これまでになかったアイデアが生まれるかもしれません。
売上の拡大は「市場浸透」と「商品開発」を組み合わせて考えてみる!
そのことを『知価経営』という。
4 直接原価・固定費を減らして、限界利益と営業利益を高めるには
直接原価とは、商品仕入高であり、材料費です。 自社の倉庫に売れ残りはありませんか?
この売れ残りを少なくすれば、直接原価を下げることができます。
では、売れ残りを少なくするにはどうすればいいのか?
それはやはり『在庫管理』を行ることが基本ベースです。
在庫管理をこれまで以上に徹底し、それを仕入に活かせば、必ず、直接原価を減らすことが出来ます。
直接原価を減らすことは、黒字経営に対して、非常に大きな一歩です。
直接原価は在庫管理をこれまで以上に徹底し、その情報を活かせば、必ず減らせる!
次に固定費ですが、必ず減らせるモノがいろいろとあるはずです。
固定費を削減するポイントは、削減目標が全員わかり、また心に残るように、「大胆な目標を設定する」ということです。
小さな削減目標では、インパクトも弱く、全員による共通認識にはなりません。
大胆に削減目標を公表して、全員の心に留まらせることが、大事なポイントなのです。
さらに人件費とは違い、固定費の削減で困る社員はいません。
みんなで共通認識を持って、不要な固定費を思い切り減らしましょう。
固定費削減は「大胆な目標」を設定する!
そうすることで全員の心に残る。
次回は、現預金の増加について考えてみます。
今回は、黒字経営のためには「売上高アップ」「直接原価の抑制」「固定費の削減」、この3点が肝要であることを知りましょう。