525.知っておきたい 脱炭素社会とは
2021年7月31日
目まぐるしく変わっていく社会環境ですが、
今回からは、そんな社会環境を理解するために、知っておきたい用語を紹介していきたいと思います。
これらのことは、あまり直接的には私たちの中小企業事業にとって関係がないように思いがちですが、
回りまわって、必ず私たちの事業にも影響を与えるものです。
そう、「風が吹けば桶屋が儲かる」理論です。
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強い風が吹くと砂ぼこりが舞い、砂が目に入って失明してしまう人が増える。
そうして失明した人は三味線を弾くようになるので、三味線に張るネコの皮が必要となり、ネコが減る。
ネコが減るとネズミが増えて、ネズミが桶をかじるようになるので、桶の需要が増えて桶屋の商売が繁盛する。
つまり、なにも関係がないと思われることが、回りまわって、商売に思いもよらない影響を与えるという格言です。
<風・桶屋理論>
風が吹く →砂埃が舞う →目に砂が入る →失明する →三味線を弾く人が増える →三味線が売れる
→ネコが減る →ネズミが増える →桶をかじる →桶屋が儲かる
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そのような社会環境の第1回は「脱炭素社会」です。
1 脱炭素社会とは
2020年10月、菅総理は所信表明演説で「脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。
脱炭素社会とは、炭素(CO²)を社会から減らす、無くす、という意味です。
これにより、製造業は、これまでの化石エネルギーを主とした体制からの転換を迫られているといわれていますが、
何も大きな影響を受けるのは製造業だけに止まらないはずです。
脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となっている「温室効果ガスの実質的な排出量ゼロを実現する社会」のことを
いいます。温室効果ガスの排出量を抑え、排出された二酸化炭素を回収することで、温室効果ガスの排出量を全体
としてゼロしようとするものです。
この地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を抑制するという概念は、「カーボンニュートラル」とも呼ばれます。
※carbon neutral とは、直訳すると「炭素中立」となります。
つまり、削減できなかった二酸化炭素の排出量をいろいろな手段で相殺し、最終的に排出量を実質ゼロにすることを
意味します。
2 脱炭素社会とは地球環境を守るための取り組み
地球温暖化の主な原因は、「温室効果ガスの増加だ」とされています。
温室効果ガスとは、太陽からの熱を封じ込めて地表を暖める作用をもたらす、大気中のガスのことです。
その主なものとして、二酸化炭素(CO²)、メタンガス、一酸化二窒素、フロンガスなどが挙げられますが、
なんといっても、地球温暖化に大きな影響を与えているのが「二酸化炭素CO²」です。
-部門別CO²排出量グラフ-
環境省「地球温暖化対策計画」より
そのため、たとえばガソリン車を廃止し、電気自動車や水素自動車に切り替えようとしています。
しかもその切替スピードは速く、早ければ2030年を待たずして、ガソリン車から電気自動車などへの切り替えが
始まります。
2030年といえば、あと僅か、9年後です。 ひょっとしたら、もっと早まりそうな状況です。
3 脱炭素社会化の影響
ガソリン車から電気自動車などへの切り替えは、自動車産業界だけの影響には収まりません。
特に、日本経済は自動車産業に大きく依存していますので、その影響は経済の根幹そのものやさまざまな産業界へも
波及します。
この切り替えは言い方を換えると、エンジンからモーターへの切り替えです。
このことは、自動車部品点数が大きく減ることを意味しますが、部品自体も大きく変わることを意味します。
したがって、脱炭素社会は、自動車メーカーに止まらず、自動車部品製造メーカー、ガソリン販売業者、あるいは
電機製造業、一般の工場製造業や電機産業、焼却場など、多くの産業に「ピンチとチャンスをもたらす」ことに
なります。
もちろん、家庭や家計にも大きな影響を与えます。
4 環境省発表のガイドライン
2015年のパリ協定では2つの目標が掲げられました。
1.世界の平均気温の上昇を、産業革命前からの1.5~2℃未満に抑制する
2.21世紀後半に世界の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする
この目標を達成するために、2021年4月、菅総理は「2030年までに温室効果ガスの排出を2013年度比で
46%削減する」という大胆で超野心的な国際公約を宣言しました。
※ちなみにこれまでは、2013年度比26%でした・・。
そして、その施策の骨子は次のとおりです。
1.LED等の高効率照明をストックで100%にする
2.家庭用燃料電池を530万台導入する
3.ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)を推進する
※ZEHとは、外壁の断熱効果を大幅に向上させるとともに、高効率で省エネを実現したシステム導入で室内環境を
維持しつつ、そして再生可能エネルギーを導入して年間のエネルギー消費量の収支ゼロを目指す住宅のことです。
経済産業省資源エネルギー庁「省エネポータルサイト」より
これだけでも、電機業界、建設業界、そして家庭にも大きな影響を与えそうなことが予測できます。
5 脱炭素社会実現への取り組み
菅総理は2020年12月に開かれた成長戦略会議で、
実行計画として「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略」を打ち出しています。
グリーン成長戦略とは、地球温暖化への対策に積極的に取り組むことで産業構造に変革をもたらし、経済と環境を
好循環させる産業政策です。
その脱炭素社会の実現に向けて、ポイントして挙げられるのは次の3点です。
(1)イノベーションの推進
(2)グリーンファイナンスの推進
(3)ビジネス主導の国際展開・国際協力
(1)イノベーションの推進
イノベーションの推進とは、次世代型太陽電池やカーボンリサイクルなどによる、革新的なイノベーション推進の
ことだそうです。
たとえば、先ほどの自動車は、太陽電池や水素をエネルギーとして走行する自動車の実用化によって、CO²削減が
可能になります。
このことは、産業構造の変革をもたらしますので、経済成長を牽引する役割を担うことも期待できます。
ただし、電気自動車の場合は、単にガソリン車から代替しただけでは十分な対策とはならないともいわれています。
なぜなら、日本では、動力となる電気の発電は化石燃料を用いる火力発電が大きな割合を占めており、太陽光発電や
風力発電などの再生可能エネルギーがそのベースになっていないからです。
また電気自動車を生産するときに排出する温室効果ガスは、ガソリン車よりも多くなるという課題も予想されて
います。
(2)グリーンファイナンスの推進
グリーンファイナンスとは、温室効果ガス排出削減など、環境に良い効果をもたらす事業への資金提供を指し、
脱炭素社会に貢献する企業の取り組みを支援できる仕組み作りです。
ここで、日本政府はESG投資を促進する取り組みを行っていく方針を掲げています。
※ESG投資とは、E:Environment(環境)、S:Social(社会)、G:Governance(企業統治)の頭文字で
あり、環境への拝領と社会貢献、ガバナンスの透明性に取り組み企業への投資のことをいいます。
(3)ビジネス主導の国際展開・国際協力
ビジネス主導の国際展開・国際協力とは、二国間クレジット制度(JCM)が代表的な取り組みとしてあげられます。
※二国間クレジット制度(JCM)とは、先進国が途上国に温室効果ガス削減の技術や資金を提供して、削減の成果を
二国で分け合う制度のことをいいます。
日本は2021年2月現在、17ヵ国の国々と二国間クレジット制度を締結しています。
6 主な国内企業の取り組み事例
(1)竹中工務店
竹中工務店では、既存の中小オフィスのZEB化改修のモデルとして、東関東支店のZEB・PEB化工事を実施して
います。
※ZEBとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略で、エネルギー消費量を削減するとともに太陽光発電などで
エネルギーを創出し、一次消費エネルギー量の収支をゼロにするビルをいいます。
※PEBとは、プラス・エネルギー・ビルの略で、ZEBのさらに一歩先を行って、エネルギー消費量を創エネルギー
量が上回るビルのことです。
(2)リコー
リコーでは、「脱炭素社会実現に貢献する技術開発」、「省エネ・再エネ関連ビジネスの提供」、「事業活動における
脱炭素化」の3つの柱から、脱炭素社会の実現に取り組んでいます。
「脱炭素社会実現に貢献する技術開発」としては、CO²排出を抑制する製品やサービスの開発を行い、「リコー・
リライタブル・レーザシステム」を開発しています。
「省エネ・再エネ関連ビジネスの提供」としては、顧客のCO²削減をサポートする「サステナビィリティ・オプティ
マイゼイション・プログラム」を実施しています。
「事業活動における脱炭素化」としては、生産プロセスの改善、高効率加湿システムや太陽光発電システムの導入など
の取り組みを行っています。
(3)アスクル
アスクルはサプライチェーン全体でのCO²削減に取り組んでおり、2030年までに事業所・物流センターや、物流
センターから顧客に配送する車両からのCO²排出量ゼロに取り組んでいます。
7 脱炭素化社会実現のための関連取り組み
(1)SDGs:世界経済のルールチェンジ
これから世界は、化石エネルギーを購入する社会から、再生可能エネルギーを活用する社会へと変貌して行きます。
しかしその過程で、先進国による一方的な搾取だけではなく、フェアなトレードによる継続的な取引で、途上国の
低所得者も適正な利益を確保できることも求められます。
こうしたルールチェンジを先駆けて示しているのが、「SDGs」です。
SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略ですが、
2015年、国連サミットで国際社会の目標として採択され、SDGs に則り行動することは、世界の共通認識と
なっています。
(2)ビジネスモデルの転換:垂直統合型から水平分散型へのシフト
これまで、大企業が生産から販売までを1社で担う、「垂直統合型ビジネスモデル」が普通でした。
しかしこれを、昨今では小さな企業に業務を分散する「水平分散型ビジネスモデル」の事業運営が主体になる傾向に
あります。
8 脱炭素社会実現に向けて求められる対策とは
大きな変革へ舵を切るには、継続的に取り組める仕組みやCO²削減に貢献する製品の普及を図る施策が
求められます。
(1)エネルギー消費効率の改善
たとえば、鉄鋼業は、鉄鉱石とコークスを原料に銑鉄を製造する高炉法が主流ですが、その方法では大量のCO²を
排出します。そこで、新型設備等の導入によって、CO²排出量を2割削減する取り組みや、CO²排出量を4分の1に
抑える鉄スクラップを利用する電炉の生産設備を増設する企業などがみられます。
また化学工業では、大量の電力を使用するので、製造技術の進化によってエネルギー消費量を抑えるか、あるいは再生
可能エネルギーを使用する試みがされています。
さらに化学工業大手では、SBTイニシアチブに基づく、CO²排出量削減目標を設定する国際的な枠組みに参加し、
CO²削減に取り組んでいます。
(2)競争力の強化と継続的な改善を行う仕組みの導入
2050年に脱酸素社会を実現するには、従来よりも高い水準・スピードでの、CO²排出量削減の推進が求められ
ます。そこで、継続的な取り組みに対してのインセンティブや、企業間の競争力を強化する仕組みなどの導入がされ
出しています。個々の排出削減量を決めて、キャップ・アンド・トレード方式によって国内のCO²排気量を取引する
仕組みを導入したり、あるいは地球温暖化対策税を創設するといった方法が検討されていまです。
(3)最先端技術の研究開発と世界最速の実用化、普及拡大
国内製造業がCO²排気量を大きく削減する製品を開発しても、普及が進まなければ、利益にはつながりません。
そこで、CO²排出量を大きく削減できる製品を、適正に評価できる仕組みが必要となります。
例えば、低燃費自動車や省エネ型家電、太陽光発電、ヒートポンプなどは国際戦略製品として国内市場を育てると
ともに、海外展開を支援することや、化石エネルギーからの脱却、天然ガスや水素エネルギーの活用推進の施策も
課題となります。
いろいろな聞き慣れない用語もたくさん出てきましたが、それこそが「変革」を示しているといえます。
「脱炭素社会の実現に向けた取り組み」は、製造業にとっては避けては通れない課題であり、CO²をはじめとする温室効果ガスの
排出削減に向けたアクションが強く求められています。
同様に多くの企業、中小企業においても避けられない課題であり、アクションがやはり求められます。
将来的には消費者の商品選択に、CO²排出量が基準の一つになることも考えられます。
「できることから始めていく!」、この当事者意識を持った行動が、これからのビジネスのスタンダードとなって行きます。