534.新.財務諸表3 負債が表すもの
2021年10月1日
前回は、貸借対照表の全体と負債・純資産ならびに資産が表すものについて、その概要を見ました。
今回はそれらをもう少し細かく見て、「負債が表すもの」について見ていきます。
1 負債を少し細かく見る
右の負債と純資産は、「資金調達の出所」を表していることは説明しました。
そして、負債は「他人資本」であり、純資産は「自己資本」であることも説明しました。
今回は、その「負債」について、もう少し細かく見てみましょう。
2 負債
負債は「流動負債」と「固定負債」に分けられていることに気づきます。
これもすでに理解した「ワン・イヤー・ルール(1年基準)」で区分されています。
負債は1年基準で「流動負債」と「固定負債」に分けられています!
では、「流動負債」とは何なのでしょうか?
3 流動負債
流動負債とは、文字どおり、「流動(変動)する負債(他人資本)」という意味ですので、
「1年以内に返済しなければならない他人資本」の集まりです。
具体的には、「支払手形」「買掛金」「短期借入金」「未払金」「未払費用」「仮受消費税等」などがあります。
流動負債とは「1年以内に返済しなければならない他人資本」の集まりです!
会計の書籍を見ると必ず、上記に加えて「コマーシャルペーパー(CP)」とか「繰延税金負債」など、むずかしそうな科目名が
記載されていますが、それは一般の会計書籍が「企業とは大企業のこと」として書かれているからです。
また、会計事務所も時折むずかし言葉を使いますが、それは会計業務はむずかしいと思わせて、職域を守るために過ぎません。
企業の圧倒的大多数は『中小企業』であり、中小企業においては、多くの場合、それらはまったく関係ありません。
それが会計を難しいもののように思わせている原因の一つです。中小企業の会計は、本当はすごくやさしいのです。
では、話を元に戻します。
これら流動負債のほとんどは、日常の営業活動で発生する負債でもあり『営業負債』とも、言い換えられます。
営業にともなう負債ですから、当然のことながら、返済期間は短く設定されていることが想像できます。
経営のポイントは、「いかに流動負債を最小限にして経営を行うか」です。そうすると資金繰りもラクになってきます。
経営のポイントは「如何に流動負債を少なくして経営を行うか」です!
では、かんたんに一つ一つ見ていきましょう。
(1)支払手形
支払手形とは、「買掛金」を支払うために発行した手形です。
手形で支払うことで支払期限をさらに延ばせるメリットがありますが、支払手形の怖さは決済日が来れば待ったなしに
決済しなければならないことです。「チョッと待って!」なんてことは言えません。
決済日に決済できなければ銀行取引が停止されますので、銀行取引が停止されてしまうと実質企業活動はできなくなります。
つまり、「倒産する」ということです。
大昔は、まだ金融がいまほど発達していませんでしたので、手形で支払期日を延ばして資金繰りをラクにすることは、
一理ありましたが、いまでは無用の長物です。
そんなリスクを犯すより、普通に商売さえしていれば、もっと安全な資金調達方法が用意されています。
したがって、支払手形は「むかしの資金調達方法であり、現代ではもう利用する必要はない」と理解されるべきものかと思います。
また、業界によってはまだ手形を使う習慣が色濃く残っていますが、「そんな業界慣習は改める!」という気概も必要です。
支払手形は以前の商習慣です!
(2)買掛金
買掛金とは、簡単にいえば「ツケ」であり、「掛け仕入」ともいいます。
その都度、請求すると事務も大変になるので、期日を決めてそこまでの請求金額をまとめ、支払期限を明示して請求されますので、
その支払いをするまでの未払代金のことをいいます。
経営のポイントは、納品・引き渡しを受けてから支払までの期間を仕入先と交渉し、少しでも支払いを延ばすことと、決められた
期日に支払うということです。
期日よりあまり早く支払うと、ときには仕入先からそれを当てにされてしまうこともありますので、あまり好ましくはありません。
買掛金は少しでも支払期日を延ばす努力と決められた支払期日に支払うことが大切です!
(3)短期借入金
短期借入金とは、運転資金目的で借入した金融機関からの融資のことです。運転資金目的とは、賞与支払や税金の納付などです。
これは短期間の融資になりますので、支払金利も高くなります。
しかし、そもそも、賞与も納税も予めわかっていることですから、融資に頼らず、支給・納税ができるようにマネジメントすべき
ものです。
したがって、短期借入金している場合は、そもそもマネジメントに対する反省をすることと、そうしなくてもよいように経営改善を
行うことが大切です。
短期借入金をする陰には必ず「経営改善課題」が存在しています!
(4)未払金
未払金とは、建物や車両あるいは機械設備や備品など、単発的なモノを購入したときの代金未払額です。
1年以上にわたって支払するときは、「長期未払金」という固定負債の科目に分類することが大切です。
また、何の未払金がいくらあるのか、常にわかるようにするため、科目の内訳管理をすることがマネジメント上、大切なことです。
(5)未払費用
未払費用とは、後払いなどなっている日常的な費用の未払額です。
たとえば、水道光熱費やガソリン代、交際費や事務用品代、あるいは消耗品費代など、いろいろあります。
これも経費節減の観点から、科目の内訳管理をすることがマネジメント上、大切なことです。
未払金・未払費用はマネジメント上、内訳管理することが大切です!
(6)仮受消費税等
消費税に関して『税抜き経理』をしていれば、必ずこの「仮受消費税等」と流動資産に「仮払消費税等」が発生し、把握できます。
仮受消費税等とは、仮に受け取った消費税という意味ですから、売り上げたときに顧客から預かった消費税の合計です。
いま消費税は10%ですから、年商3000万円であっても、300万円も消費税を仮受けていることになります。
一方、仮払消費税等とは、仮に支払った消費税という意味ですから、仕入や経費などで支払った消費税の合計です。
基本的には、仮受した消費税合計から仮払した消費税合計を差引した金額が『消費税の納付額』となります。
ですから、常に、それを見越した現預金残高がなくてはなりません。
いま多くの中小企業で、期中は資金繰りがラクになったと勘違いするところが多くなっています。
そして、納付時期になるとそれが仮受消費税であったことに気づき、もうあとの祭りで納付するおカネがないということです。
気をつけましょう。
「仮受消費税等ー仮払消費税等」が「概算消費税納付額」!
概算消費税納付額に見合った現預金はありますか?
この概算消費税納付額を常々チェックしていれば、納税時に「資金が足りない!」というような状況は避けられます。
これから消費税納付額は、インボイスや税率変更などによって、確実にまだ増加していきます。
いまからこのような管理をする癖をつけておくことは、大変重要なことです。
消費税納付額はこれからますます増加していく!
4 固定負債
固定負債とは、文字どおり「固定的な負債(他人資本)」という意味であり、「1年以上かけて返済する他人資本」の集まりです。
具体的には、「長期借入金」「長期未払金」などがあります。
重要なことは、この固定負債と純資産を加えて、少なくともこの範囲内で設備投資は行うということです。
設備投資は固定負債と純資産内で行う!
なぜなら、設備である固定資産は長期にわたって利用するのもであり、減価償却を通じて費用化しています。
そんな長年にわたって運用するモノを、短期に返済しなければならない高金利の流動負債で投資するわけにはいきません。
したがって、設備投資は返済する必要のない純資産と、不足分を固定負債で補う形ですることが望ましくなります。
では、かんたんに見ていきましょう。
(1)長期借入金
長期借入金とは、「1年以上をかけて返済する金融機関からの融資」です。
それが1年未満で返済しなけれならないのなら、『短期借入金』となります。
一般的に、短期借入金の支払金利は短期間しか借りないので高く、長期借入金の支払金利は長期間に渡り借りるので低くなります。
したがって、設備投資目的で融資を受ける場合は、長期借入金として金融機関から借りることになります。
また経営管理上、会計的にも長期借入金の1年以内返済部分は、『1年以内返済長期借入金』として長期借入金とは分けて管理し、
流動負債に計上されます。
借入金は、長期借入金・1年以内返済長期借入金・短期借入金に分けて管理する!
(2)長期未払金
長期未払金とは、リース契約や流動負債の未払金のうち1年以上未払となるもののことです。
1年以上未払になる未払金とは、主に経営者に対する未払も多いので、『役員借入金』とする場合もあります。
役員借入金とした場合は、金融機関が実質、自己資本扱いで判断したり、
あるいは逆に役員(オーナー)が個人資産を入れないといけないほど経営が苦しいと見られたりするとも言われますが、
後者は大企業の場合であり、中小企業の場合はほとんど前者で解釈されます。
以上、今回は「財務諸表の表すもの」とし、負債が表すものを説明しました。
これらは財務諸表を読んで、経営をコントロール(操縦)する時代です。
どんぶり勘定時代はどんな事業においても終わっていると、認識しておきたいものです。
次回は、資金調達のもう一つ「純資産」を少し詳しく見て、経営に資する内容を説明します。