536.新.財務諸表5 資産が表すもの 前編

2021年10月16日

前回は、貸借対照表の「資金調達の出所」のもう一方である自己資本『純資産』が表すことについて見て来ました。

『純資産』は一般的に、あまり見られることがない項目ですが、「事業の状況を端的に表す」非常に重要な項目であることを

認識されたかと思います。

事業がうまく行っていれば、必ず純資産は資本金以上に増えており、かつ現預金とのバランスを見ることが重要だとお分かり

いただけたかと思います。

今回は、調達した「資金の運用(調達資金の活用状況)」を表す資産の中の『流動資産』について見ていきます。

 

 

1 資産を少し細かく見る

資産とは、調達した資金の運用状況「調達資金をどのように活用しているのか」を表しています。

そして、ワン・イヤー・ルールによって、「流動資産-固定資産ー繰延資産」に3分割されて、表示されています。

※このコラムでは「繰延資産」の説明は割愛します。

 

その中の流動資産も「当座資産ー棚卸資産ーその他流動資産」に3分割されて、表示されています。

固定資産も同様に「有形固定資産ー無形固定資産ー投資等その他の資産」に3分割されて、表示されています。

ここまではすでに何回も説明しているとおりです。

 

では、流動資産について、詳しく見ていくことにしましょう。

 

 

2 流動資産の『当座資産』とは

当座資産とは、「当座の間に資金化できる資産」という意味です。具体的には、現金、預金、受取手形、売掛金などがあります。

 

(1)『現金』

現金は文字とおり「キャッシュ」を意味しますが、これは何度も説明するように会社にとっては「ポッケトマネー」のようなもの

であり、大金を意味しません。

現金は少額を、日常突発的に発生する支払手段として持っておくべきものです。

 

企業にとって現金とは「少額のポケットマネー」であり、大金は意味しない!

 

さまざまな中小企業の決算書を見ると、大金の現金を手元に置いている企業もあります。

しかしそれは、ワンマンでルーズな企業体質か、虚偽の決算書であることを示す場合が多いようです。

※もちろん、断定はできません。しかし大金を手元に置いていることは好ましい状態ではありません。

 

(2)『預金』

1.おカネは必ず預金口座を通す

預金は、現金と形態は違いますが、ほぼ準じるものです。

ともかく、おカネは一旦預金に預け入れ、必要ときに預金から現金を引き出すという習慣をつけることが大事です。

そうすることによって、おカネは必ず通帳を通りますので、会計の明朗性が高まります。

さらに『内部牽制』にもつながります。

*「内部牽制」とは、適切な業務分掌で社内の不正や誤謬を未然に防止し、事後も速やかに発見できる会社内部の体制のことです。

会社は社長のものではありません。そこで生計を立てている全員のものです。

経営の透明性を図ることは重要です。

 

おカネは預金を通すことが大切、それによって内部牽制にもなる!

 

2.預金は用途別管理を行う

また、資金繰りに強い会社にするためには、この預金の管理の仕方が大事です。

つまり、預金を「預金」一本だけで残高管理をするのではなく、資金用途別に内訳管理をすることが重要なハウツウです。

たとえば・・・

 預金の用途として、日常の運転資金、賞与支給用の資金、法人税・消費税等の納税資金、設備投資用の資金があるとします。

 その用途別に会計上で振替仕訳を行い、用途別に預金管理をします。

  《資金用途別預金管理イメージ》

   預金残高  500万円   ←預金の合計です。

    運転資金 100万円   ←すべての預金は一旦運転資金に振替え、この運転資金から下記の資金へ振替えます。

    賞与資金 100万円   ←賞与支給に必要になる金額を毎月振替えていきます。

    納税資金 100万円   ←仮受消費税と仮払消費税の差額を毎月振替えていきます。

    設備資金 200万円   ←毎月の減価償却費分の金額を振替えていきます。

 

 こうすることによって、賞与や納税、あるいは設備購入時に資金が不足するということが起こらなくなって来ます。

 

ただし、初めてこのような預金管理を行うと、多くの場合は運転資金から各用途へ振替えきれなくなると思います。

実は、このことを知ることが、大変重要なことなのです。

つまり、会社は常に資金不足に陥っているということが通常の状態なのです。

会社を経営していくうえで大切なことは、この現実をまず認識して、そしてどのような方法で資金繰りを改善して行くのか?

を考えることなのです。

因みに、当研究所でもこのような管理を始めた頃は全く資金が足りず、運転資金から振替えることができませんでした。

そこで社内外からの抵抗もありましたが、「高付加価値経営」へ徐々に切替え、5年ほどかけて改善をしてきました。

中小企業には大企業のように、大胆な資金手当ては出来ません。

だからこそ、このような地道な経営努力が必要なのではないのでしょうか?

 

資金繰りに強い経営体質にするためには預金を用途別管理することが重要!

 

(3)『受取手形』・『売掛金』

受取手形と売掛金とは、掛け売りの企業であれば、販売と同時に発生する債権です。この両方を併せて「売上債権」とも呼びます。

1.受取手形

まず、受取手形や支払手形などは使わなくすることが重要です。

いまの時代で手形を使う必要はありません。手形によって増大するのは『リスク』です。

2.売掛金

次に売掛金は事故がなければ、1カ月から数カ月で「資金化できる」債権です。

しかし、まだ現預金ような決済能力はなく、売掛金の状態は「ただの紙切れと同じである」ことを理解しましょう。

多くの経営者はそれを『財産』であるかのように錯覚されていますが、まだ財産ではありません。

だから回収管理が重要なのです。

まず回収管理で大切なことは、きちんと期日に請求書を発行し、きちんと期限で回収するという当たり前のことです。

しかし中小企業や家内工業では、このことをきちんと出来ている会社は少なくないようです。

この商習慣を、しっかり行うことが「信用」の第一歩です。

 

期日に請求書発行し期限で回収する、これが『信用』の第一歩!

 

3.運転資金要調達高

さらに「営業資産」ともいえる売掛金や棚卸資産には、多大な費用がかかっているのです。 そう、原価や経費などです。

だから売掛金などの営業資産は、調達した資金を運用している状態であり、おカネを使っている状況に近いことを理解しましょう。

したがって、急激に売上が伸びると、売掛金回収前に増えた仕入や経費の支払が先に来ることになりますので、

資金ショートが起こることがあります。これが『黒字倒産』です。

だから、売掛金などの営業資産運用の資金管理が重要なのです。

 

不足している営業資金額のことを『運転資金要調達高』といい、「売上債権+棚卸資産-買入債務」で求められます。

「売上債権+棚卸資産」は、売買活動で運用している資金総額です。売上債権が200、棚卸資産が100であれば、300です。

「買入債務」とは、売買活動で調達している資金総額です。支払手形が100、買掛金が50であれば150です。

つまり、この場合、300-150で150、売買活動で資金不足(運転資金要調達高)していることを意味します。

この運転資金調達高より、現預金が多くあれば問題ありませんが、それが少なければ資金手当てを考える必要があります。

 

運転資金に関する資金不足は「売上債権+棚卸資産-買入債務」で予測できる!

 

 

3 流動資産の『棚卸資産』とは

棚卸資産とは「在庫」です。

一般的に、多くの中小企業は「過剰な在庫を抱えている場合が多い」といわれます。

平均月商以上の在庫は、そのほとんどが『デッドストック』、つまり不良在庫と考えてよいと思われます。

実はこの棚卸資産の有り高が、中小企業における黒字優良企業とそうでない企業との「分岐点」と言われています。

優良な黒字企業は「棚織資産が必ず少ない」という共通点があります。

 

在庫の有り高が優良黒字企業との岐路である!

 

 

4 流動資産の『その他流動資産』とは

ここまで説明してきた、当座資産と棚卸資産以外が「その他流動資産」ということになります。

その主なものは、前渡金、前払費用、短期貸付金、立替金、仮払金、仮払消費税等などです。

この「その他流動資産」のマネジメントで大切なことは、前払費用と仮払消費税等を除き、極力「発生させない」ということです。

このマネジメントが「健全な経営」へと導いてくれます。

 

その他流動資産は極力発生させない、それが健全経営へ導く!

 

 

 

以上、今回は「資産が表すもの 前編」とし、流動資産が表すものを説明しました。

この流動資産を読みこなすことができれば、毎日の安定した経営ができるといわれています。

流動資産は毎日の経営状況を知る宝庫ですから、これをコントロール(操縦)して経営をすれば、安定した経営ができます。

次回は、「資産が表すもの 後編」として、固定資産を少し詳しく見て、経営に資する内容を説明します。