19.支払能力③堅い手元流動

2009年10月3日

財務分析解説コラム(3) 当社の支払能力は大丈夫?さらにシビアに見る -手元流動性-
これまで会社の支払能力(返済能力)について、流動比率、当座比率と見てきました。今回は超シビアな支払能力『手元流動性』の説明をします。これが十分であれば、会社は絶対潰れません。

手元流動性とは
手元流動性とは現預金やすぐ換金可能な有価証券などを月商で割ったものです。大企業で1ヶ月余り、中堅企業で1.5ヶ月余り、中小企業だと2ヵ月分程度あればと「安全」と言われています。
計算式:手元流動性=(現金+預金+有価証券+すぐ借り入れ可能な金額)÷平均月商

手元流動性が十分であれば会社はつぶれない
会社の安全性(短期的な支払能力)を示す財務分析には、流動比率、当座比率、手元流動性などがありますが、流動比率には資産に棚卸資産が計上されており、すぐ処分できるかどうかわかりません。また当座比率にも受取手形や売掛金が計上されており、すぐ回収できるかどうかわかりません。
手元流動性は「現金及び現金同等物」であり、確実に換金できます。手元流動性が十分であれば会社はつぶれません。その意味では、自社の安全性を判断する際の優先順位は、次のとおりです。
第1位 手元流動性
第2位 当座比率
第3位 流動比率

手元流動性を改善するには
上記1の手元流動性の計算式から、①現金及び現金同等物を増やす ②平均月商を減らす ことで手元流動性が改善できることがわかります。平均月商を減らすことは非現実的ですので、対策は現金と現金同等物を増やすことになります。

現金及び現金同等物を増やして手元流動性を改善する具体的方法
(1) 受取手形、売掛金の回収を早める
現金及び現金同等物を増やすには、売上債権の早期回収に向けて努力することです。「早くできるのなら、とっくにやっているよ」と言い切ってしまったなら、自社の改善はできません。これまで確かに改善の努力はされてきたのでしょうが、「本当に真剣に交渉してきたのか」「もう本当に交渉の手はないのか」と考えないと改善はできません。
①社員任せにしてこなかったか?
交渉自体を社員任せにしてきませんでしたか。やはり、社長直々訪問されて交渉されるのと、社員だけで交渉されるのとは違います。例えば、自社に取引先社長自らが訪問されてくる場合と、担当社員だけが訪問されてくる場合とでは、自社でも対応が違いませんか。
②回収サイトを早める条件を考える
回収サイトを早めるということは、取引先にとって不利な条件を飲んでいただくということです。ビジネスですから、不利な条件を飲んでもらうためには、同等の好条件を提示しなければなりません。支払を早めてもらうためには金利程度の値引きを実施するなどの条件提示をする必要があります。新しい取引には、新しい取引条件を提示します。
(2)売上を増やして手元流動性を増やす
分母(平均月商)も増やしますが、増えた分、手元流動性もいままで以上を高める考え方です。「売上高を増やすなんて簡単にできないよ」という話になります。しかしこれが根本的な改善方法です。中小企業の多くの場合、意外と疎かになっているのが自社商品のコンセプトが明確になっていないこととその訴求ポイントが顧客視線からなされていないことです。また、昨今では「価格政策」が大変重要です。いま一度、変動損益計算書観点から生産量を併せて、価格政策を考えてみましょう。

「平均月商が大きくなると手元流動性が悪くなる」という意味は
会社の安全性から考えて「月商が増えると手元流動性が悪くなる」とはどういうことなのでしょうか。ふつう月商が増えればビジネスとしては良いことです。あるいは成功しているということです。しかし手元流動性は悪くなります。これは一般的に陥りやすい『罠』です。つまり、ビジネスが大きくなれば大きくなるほど、必要となる(運転)資金が大きくなるということです。経営者としては売上が増えているのだから、お金も増えているという『錯覚』になりがちです。現金商売ならその感覚と差異はありませんが、掛売りであったりクレジット売りであれば入金時期は大きくズレます。仕入代金や人件費、経費は大きくなり、かつ入金前に支払わなくてはなりません。つまり『黒字倒産』の恐れがあるということです。飲食業などで繁盛すると、次々と新規出店を展開して、挙句の果て失敗する事例がよくあります。この場合は費用の肥大化に加え、新規出店費用がかさみ、そのようになります。月商が増えるということは、必要運転資金が大きくなるということです。

いかがでしたか?
会社の安全性の問題は、資金管理(マネジメント)の問題でもあります。必要になってきたから、資金管理をやろうとしても、要領がわからずノウハウもありませんから、急にはできません。ぜひ、日常管理として資金管理をされることをお奨めします。

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