545.科目の読み方② 売上債権
2021年12月19日
今回の「科目の読み方」は『売上債権』です。
1 売上債権とは
売上債権とは、売上と同時に生じる債権のことで、「受取手形」と「売掛金」のことをいいます。
受取手形がある場合は、「売上高 →売掛金 →受取手形 →手元資金」という資金回収の流れとなり、
売上債権が資金化できるまでの期間が長くなります。
手形を受け取らない場合は、その分だけ資金回収の時間は短くなり、現金売上だけの場合はさらに短くなります。
なお、手形を受け取る場合は、資金化を早めるために受け取った手形を割引する場合も多いので、
割引コストと不渡リスクが生じることになります。
なかなか自社だけでは解決できない問題ではありますが、手形取引は古い商慣行ともいえ、できれば避けたいところです。
また資金繰りをラクにするポイントもまさにそこにあり、
手形を受け取らないで済む取引を考えること、あるいは売掛金の一部だけでも現金回収できるようになどの工夫を考えます。
資金繰りを楽にするポイントは
手形を受け取らないこと、売掛の一部だけでも現金回収化にすることにある!
2 売上債権の資金的な考え方
売上債権は「資産の部」に表示されています。
「資産」ということは、手元資金を除いて「資金を運用している」ということになります。
ここを考え違いしている人が多くあり、資金を運用しているということは手元資金になるまで資金を使っているということです。
資金を売上債権として運用しているということは、どこかでその資金を調達しているということになります。
売買活動において資金調達しているところとは「買入債務」なのです。
買入債務とは「支払手形+買掛金」のことであり、確かに買入債務は負債であり借金なのですが、
会計では「資金調達をしている」と見ます。
売上債権という運用資金の財源がすべて買入債務で出来ているならば、売買活動で別途、資金調達する必要はありません。
しかし、売上債権の運用は買入債務に利益を上乗せしているわけですから、通常は不足することになります。
その不足分のことを「要調達運転資金」と呼び、現実的にはそれを手元資金で補填していることになります。
売上債権と買入債務の差額分のこと「要調達運転資金」と呼ぶ
実際の売買活動で運用している資産には「売上債権」のほかに、まだこれから売るか売れ残るかという「棚卸資産」があります。
したがって、売買活動の「要調達運転資金」は次の算式で計算できることになります。
「要調達運転資金」=(売上債権+棚卸資産)ー買入債務
たとえば、受取手形0円、売掛金500万円、棚卸資産150万円、買入債務300万円であれば、
(売上債権500万+棚卸資産150万)ー買入債務300万=要調達運転資金350万となり、
基本的には手元資金として350万以上なければなりません。
もし少ないようであれば、資金化される売上債権も回していることになり、いわゆる「自転車操業」ということになります。
このことは会計事務所の人でさえ、わかりやすく説明できる人は少ないようです。
しかしこのように理解すれば、「要調達運転資金」の考え方が分かります。
この「要調達運転資金」は実務では非常に重要なことですので、よく理解しておきましょう。
3 要調達運転資金の考え方の応用
上記のように要調達資金の考え方が理解できれば、
日々の事業活動に必要な要調達資金や経営全般における要調達資金についても理解ができるようになります。
(1)日々の事業活動に必要な要調達資金の状況
日々の事業活動で運用している資産とは何でしょうか?
B/Sを見るとそれが表示されています。
それは流動資産から手元資金を除いたもの、つまり「流動資産ー手元資金」です。
手元資金を除く流動資産とは、1年以内に資金化できる資産とされています。
表現を変えれば、毎日の事業活動で資金運用している資産といえます。
逆に日々の事業活動の中で資金調達しているものは何でしょうか?
それは「流動負債」となります。
したがって、流動負債で手元資金を除く流動資産を賄えているのなら、バランスの取れた資金繰りができていると言えます。
「要調達日常事業資金」=(流動資産ー手元資金)ー流動負債
(2)経営全般の活動で必要な要調達資金の状況
では、経営全般の活動で運用している資産とは何でしょうか?
もうお分かりだと思いますが、それは総資産から手元資金を除いたもの、つまり「総資産ー手元資金」です。
手元資金を除く総資産とは、事業経営のために資金運用している資産の総額です。
逆に経営全般の活動において資金調達しているものは何でしょうか?
それは「負債(流動負債+固定負債)」です。
したがって、負債だけで手元資金を除く総資産を賄えているのなら、バランスの取れた資金繰りができていると言えます。
「要調達経営全般資金」=(総資産ー手元資金)ー負債
この不足分を自己資本(純資産)で補填しており、それでも足りない場合は手元資金を回しているということになります。
このように考えると、「純資産は極力、手元資金を多くしておくことが安全な経営」という結論になります。
強い体質の経営にするためには純資産は手元資金が多くなるマネジメントを志向する
4 売上債権の読み方
では、最後に売上債権の、そのほかの読み方をいくつか紹介しましょう。
(1)売上債権が回収できる期間
まず、売上債権がどのくらいの期間で資金化できているのかという「売上債権回転期間」です。
これは試算表の売上債権を平均日商で割ると読むことができます。
売上債権÷平均日商=〇×日 →「売上債権回転期間」と呼ぶ
これが、自社の売上債権が手元資金化されるまでに要する平均日数です。
大事なことは、自社の回収期間が「翌月」であるならば、この数値は30日前後になるはずということです。
これがもし、40日や50日になっているようであれば、どこかの得意先で未回収が発生していることを意味します。
その場合は早急にどこの得意先か特定し、回収に努める強い意志と毅然とした対応が必要です。
(2)売買活動のために用意しなければならない要資金調達率
最初に説明した「要調達運転資金」を年商で割ることで、「運転資金要調達率」がわかります。
要調達運転資金÷年商×100=〇×% →「運転資金要調達率」と呼ぶ
仮にこれが12%であって、年商が6000万であれば、
次年度500万の売上を伸ばす場合には、500万×12%=60万の新たな運転資金が必要になるということです。
(3)要調達運転資金の不足額
要調達運転資金はどこから捻出するのか?
それは手元資金でした。
したがって、手元資金から要調達運転資金を差引くことで「要調達運転資金不足額」がわかります。
手元資金(現金+預金)ー要調達運転資金=〇×円 →「要調達運転資金不足額」と呼ぶ
これがマイナスであれば「自転車操業」、さらにひどい場合は「黒字倒産」に結びつくことになります。
安定した経営をしていくためには売掛債権を毎月チェックすることが大切です。
売上高の割に売上債権が多くある場合は売上債権が多くあると安心していないで、不良債権を抱えていることに気づきましょう。