546.科目の読み方③ 棚卸資産

2021年12月25日

 今回の「科目の読み方」は『棚卸資産』です。

 

1 棚卸資産とは

 棚卸資産とは、これから売れる商品や製品あるいは売れ残った商品や製品などのことで、一般的には「在庫」と言っています。

したがって、如何に売れ残る商品や製品を少なくするかが原価を抑えることにつながり、利益を最大化することにつながります。

無駄な在庫を無くすと、原価は「最小」、利益は「最大」になる!

 

 棚卸資産には次のような科目がありますが、それぞれその使い方は決まっています。

①商品  販売することを目的に仕入した商品で、主に卸売業や小売業に生じます。

②製品  販売することを目的に製造した生産品で、主に製造に携わる企業に生じます。

③半製品 すでに加工は終わり、最終的な仕上げを待つばかりの生産品で、販売できる状態になっているものをいいます。

     主に製造業に生じます。

④原材料 製品を製造するために仕入した材料で、まだ使用されていないものをいい、主に製造業に生じます。

⑤仕掛品 まだ製造中の生産品で、その意味では半製品と同じですが、半製品との違いは販売できる状態ではないことにあります。

     主に製造業に生じます。

⑥貯蔵品 工場消耗品、補助材料、事務用消耗品、包装発送用材料、未使用切手などで、すべての企業で生じる可能性があります。

無駄な在庫を無くすることや売れ行き状況を知るためにも、定期的な『実地棚卸』は非常に重要になります。

定期的な実地棚卸は、デッドストックを無くすとともに売れ行きを知るためにも重要!

 

 

2 棚卸資産の仕訳

 正確な月次利益を把握するためには、毎月、棚卸高を計上する必要があります。

なぜなら、売上から原価を引くことで「売上総利益」は計算されるからです。

その原価を計算するためには、毎月の在庫を引かなければなりません。

そのためには次のような仕訳が必要となります。

(1)期首月の仕訳

①期首の棚卸高を計上します

 月初  借方:それぞれのP/L上の『期首棚卸高』 / 貸方:それぞれのB/S上の『棚卸資産』

     ⇒ この仕訳によって、一旦B/Sの棚卸資産はクリアされ、P/Lの期首棚卸高として計上されることになります。

②月末の棚卸高を計上します

 月末  借方:それぞれのB/Sの『棚卸資産』   / 貸方:それぞれのP/L上の『月末棚卸高』

     ⇒ この仕訳によってB/Sの棚卸資産に月末棚卸高に計上しP/Lにも月末棚卸高として計上します。

       これで売上原価が「期首棚卸高+月中仕入高ー月末棚卸高」という計算式で計算できることになります。

(2)期中月の仕訳

①前月末の棚卸資産と月末棚卸高を一旦クリアします

 月初  借方:それぞれのP/L上の『月末棚卸高』 / 貸方:それぞれのB/S前月末『棚卸資産』

     ⇒ これによって一旦、B/Sの棚卸資産とP/Lの月末棚卸高がクリアされます。

②あらためて月末の棚卸高を計上します

 月末  借方:それぞれのB/S『棚卸資産』    / 貸方:それぞれのP/L上の『月末棚卸高』

     ⇒ これによってB/Sの棚卸資産を新しい月末有り高に計上しなおすとともに、

       P/Lの月末棚卸高としても計上します。

       これで売上原価が「期首棚卸高+期中仕入高ー月末棚卸高」として計算できることになります。

(3)ポイント

①『期首棚卸高』は期首月に計上したなら、あとは一切触らない。

②『月末棚卸高』と『期末棚卸高』は同じ勘定科目で、読み替えるたけです。

③期中は『期末(月末)棚卸高』を使って、月初に棚卸資産を一旦クリアし、月末に棚卸資産を計上しなおします。

 これを期末(決算)月まで繰り返します。

注:詳しくは、それぞれの会計ソフトの解説書なりをお読みください。

 

 

3 棚卸資産の読み方

 では、棚卸資産の読み方をいくつか紹介します。

(1)売上を基準に棚卸資産の保有量を知る

 まず、自社の棚卸資産が、何日分の売上高に相当する量があるのかという「棚卸資産回転期間」です。

たとえば、毎日毎日、完売している商売なら棚卸資産はありませんので、棚卸資産回転期間は「0」となります。

また、翌日の販売分だけの棚卸資産がある商売なら、棚卸資産回転期間は「1日」となります。

これは次のような計算をします。

棚卸資産÷平均日商(年商÷365)=〇×日 →これを「棚卸資産回転期間」と呼ぶ

 

たとえば、平均日商20万円であれば、毎日完売している場合は「棚卸資産0÷日商20万=0日」となります。

売上1日分の在庫を持っているというのであれば、「棚卸資産20万÷日商20万=1日」となるわけです。

この棚卸資産の適量については業種や業態によって違いますので、一概にこのくらいが適正だとは言えません。

しかし現在は発注すれば数日後には納品される流通になっていますので、基本的には多く持つ必要はありません。

せいぜい7日分から10日分程度もあれば十分だと思われます。

 

(2)より正確に棚卸資産の保有量を知る

 賢明な方はすでにお気づきかもわかりませんが、在庫は原価価格で計上されています。

一方、平均日商は粗利を含んだ販売価格です。

したがって、分母の平均日商は着ぶくれしていますので、それで保有量を計ると、常に少なめの量として計算されます。

そこでより正確に把握するためには、「平均売上原価」で計算する必要があります。

そうすれば粗利分の着ぶくれは無くなります。

棚卸資産÷平均原価/日=〇×日 →「原価ベース棚卸資産回転期間」と呼ぶ

 

この方法で計算すればより正確となり、

同じ棚卸資産額であれば、当然のことながら販売価格ベースの「棚卸資産回転期間」より長くなります。

 

(3)売買活動のために用意しなければならない運転資金を知る

※前回も掲載していますが、棚卸資産も関係ありますので、再度掲載します。

 売買活動に要する「要調達 運転資金」は次のように計算します。

(売上債権+棚卸資産)ー買入債務=〇×円 →「要調達 運転資金」と呼ぶ

 

これは、売買活動で運用している資金(売債+棚卸)と売買活動で調達している資金(買債)との差額を表しています。

この差額は、仕入活動の調達では足りていないことを表しており、その不足分を手元資金から用立てしなければなりません。

したがって、この「要調達 運転資金」が大きいければ大きいほど、「資金繰りは厳しい」と言えます。

 

 この要調達 運転資金を年商を比較すると「運転資金 要調達率」がわかります。

要調達 運転資金÷年商×100=〇×% →「運転資金 要調達率」と呼ぶ

 

たとえば、これが12%であれば、もし仮に次年度500万の売上を伸ばそうと考えるのであれば、

500万×12%=60万、約60万円の新たな運転資金が必要になるということを表しています。

 この要調達 運転資金はどこから捻出するのでしょうか?

そう、それは手元資金からです。

よって、手元資金から「要調達 運転資金」を差引くことで「要調達 運転資金不足額」がわかります。

手元資金(現金+預金)ー要調達 運転資金=〇×円 →「要調達 運転資金不足額」と呼ぶ

 

これがマイナスならば「自転車操業」であることを表します。

さらにひどくなると「黒字倒産」に結びつくことになります。

 

 

4 業種別の棚卸資産回転期間状況

 最後に業種別の棚卸資産回転期間状況を紹介しましょう。

この表からは、一般的に「重厚長大産業であるほど棚卸資産は多く、軽薄短小産業では少ない」ということがわかります。

しかし、これらの数値はあくまでも「平均値」ですので、見本ではないことに注意が必要です。

 

※新年は9日から掲載開始します。