556.科目の読み方⑫ 売上原価

2022年3月13日

今回の科目の読み方は『売上原価』です。

事業の要諦は「売上でなく、儲けだ」とはよくいわれますが、売上原価はまさにその儲けを大きく左右するものです。

そんな売上原価について、その読み方を説明します。

事業の要諦は売上高ではなく「儲け」です!

 

1 売上原価とは

 まず、『売上原価』とは、売上のもと(原)ととなる、コスト(費用)のことです。

その売上原価は「商品仕入」と「製造原価」からなります。

さらに製造原価は「材料費」「労務費」「製造経費」に分けられます。

商品仕入は「商品仕入高」という科目だけですが、製造原価には「材料仕入高」「賃金」「外注加工費」「電力費」等々、

数多くの科目が材料費・労務費・製造原価に配置されています。

 また、売上原価の考え方には「全部原価計算方式」と「直接原価計算方式」があります。

 

(1)全部原価方式

 全部原価方式とは、税務申告など、制度会計上の原価計算方式です。

商品仕入や製造原価である材料費・労務費・製造経費すべてを売上原価として計算し、「売上総利益」を計算する方法です。

つまり、私たちが毎日、会計の中で目にしている損益計算書は、この全部原価方式で作成しています。

全部原価方式とは税務申告など制度会計上の原価計算方式です!

 

(2)直接原価方式

 直接原価方式とは、管理会計上の原価計算方式です。

制度会計上でいう原価のすべてを原価とは考えず、外部から仕入したモノだけを原価として考える計算方法です。

こうして求められた「売上総利益」は全部原価計算方式の売上総利益と概念が違いますので「限界利益」と呼ばれます。

この限界利益の「限界」という意味は、少なくともここで利益を出さなければ事業として成り立たないという意味の限界です。

 

 つまり、直接原価は仕入代金でもあるわけから、限界利益がマイナスになるようでは仕入代金さえ支払えず、

ましてそのあとに続く人件費や納税あるいは経費の支払いはできません。

したがって、ここで利益を出すことが、事業ととして成り立たせるための「限界線」ということになります。

直接原価計算方式とは管理会計上の原価計算方式です!

限界利益はここで利益を出さなければ事業として成り立たないという意味です!

 

 この直接原価計算方式の特徴は「会社が付加した価値がわかる」ことです。

商品仕入高と材料費という元の原価の上に、企業がいくらの価値を作り出したのかという「付加価値」がわかるようになります。

同じ商品や材料でも、作り手や成果物の見栄え、味や性能などによって顧客の価値感は変わります。

そのことが「付加価値」として現れるようになります。

会社業績を考える上では

直接原価計算方式の損益の方がどこに問題や要因があるのか明確にできる!

 

(3)変動費

 また、直接原価のことをその特性から「変動費」ともいいます。

直接原価である商品仕入や材料仕入は、よく売れれば仕入を増やしますし、あまり売れないものは仕入を抑えるという特性が

あります。 つまり、直接原価は売上高の増減に対して「比例する」ということです。

 そのことから「変動費」と呼びます。

このことは、損益のシミュレーションを考えていくうえで重要ですので、ぜひとも理解しましょう。

 

(4)固定費と変動損益分析

 少し話が拡がりますか、それ以外の費用は、売上高の増減にあまり関係なく発生しますので「固定費」と呼びます。

直接原価以外の費用の特性をよく見ると、もちろん、変動費的な要素と固定費的な要素を併せ持つ費用は多くあります。

しかし、シミュレーションである仮説を立てるポイントは、条件を複雑化させないで、単純明快化することにあります。

したがって、そのような費用は固定費にします。

 また、両要素を持つ場合には固定費と見做した方が厳しいシミュレーションとなり、言い方を変えれば、余裕がある

シミュレーションになります。

したがって、やはりそのような費用は「固定費」と見做した方がベターとなります。

 

 そして変動費・固定費に分けると、さまざまな変動損益分析もできるようになります。

1.損益分岐点売上高

 損益分岐点売上高とは、損と益が分岐する点、収支トントンの売上高ということです。

収支トントンの売上高とは、人件費と固定費は何とか賄える売上高ということでもあります。

つまり、固定費を限界利益率で割ることで、その売上高を求めることが出来ます。

固定費÷(限界利益÷売上高)=損益分岐点売上高

 

2.損益分岐点比率

 損益分岐点比率とは、損益分岐点売上高が実際の売上高に対してどれくらいかということです。

それによって、損益分岐点売上高に対する余裕度が確認できます。

なお、100%を超えてしまうと、赤字経営ということです。

損益分岐点売上高÷実際の売上高×100=損益分岐点比率

 

3.経営安全率

 経営安全率とは、いま説明した、損益分岐点売上高に対する余裕度です。

100%ー損益分岐点比率=経営安全率

これが低いと経営安全率も低いということになり、この経営安全率だけ売上が下がれば赤字に転落します。

 

4.限界利益率

 最初に説明したものですが、自社の付加価値率とも言えるものです。

(実際の売上高ー直接原価)÷実際の売上高×100=限界利益率

      又は      100%ー直接原価率(変動費比率)=限界利益率   

 

5.変動費比率

 これも最初に説明したものですが、自社の直接原価率とも言えるものです。

これを下げることが出来れば、限界利益率は上がることになり、経営により余裕を持たせることになります。

直接原価÷実際の売上高×100=変動費比率

 

6.労働分配率

 労働分配率とは、限界利益の内、何パーセントを人件費に充てているかということです。

また、表現を変えれば「従業員士気向上策率」ともいえるものです。

労働分配率は「従業員士気向上策率」でもある!

 

 多くの中小企業では経営方針などを定めているところがありますが、

その内容は会社に対してであったり、顧客に対してであったりしている場合がほとんどです。

なぜ、社員に対するコミットメントがないのでしょうか?!

 

これでは従業員も趣旨は分かっても、もう一つやる気が出ないのではないのでしょうか。

 やはり経営方針の中に従業員に対してのコミットメントも考えるべきだと思います。

この労働分配率はその一つになります。

人件費(給与賞与+役員報酬+法定福利費)÷限界利益×100=労働分配率

 

賢明な読者はもうお分かりかもわかりませんが、

この労働分配率は従業員労働分配率と役員労働分配率に分けて管理すべきものです。

 

7.必要売上高の試算

 ここまで数値が揃っていると、来期などの必要売上高のシミュレーション(試算)もできるようになります。

来期の必要利益や人件費・その他固定費をグランドデザインできれば、必要売上高を試算することが出来ます。

(必要利益+固定費)÷限界利益率=必要売上高

*注1:必要利益は、内部留保資金+借入返済資金+納税資金などから求めます。

*注2:固定費は、昇給込みの人件費と各経費の予算から求めます。

 

では、そのような売上原価をどのように読めばよいのでしょうか。

 

 

2 売上原価の読み方

(1)原価率を見る

 基本は売上高に占める割合である「売上原価率」を見るということです。

しかしここまで説明して来たように、それだけではあまりにも大雑把といえます。

その内訳である、「商品売上対商品仕入高率」を見るとか、「製品売上高対製造原価率」を見るとか、

あるいはさらに「製品売上高対材料費率」を見るとか、もう少し細部を読み取る必要があります。

原価率は細部を見ることが大事です!

 

(2)仕入先別に仕入高を見る

 さらに商品仕入高や材料仕入高に関しては仕入先別管理を設定し、仕入先別に仕入状況を売上状況に照らし合わせて読むことも

大切なことです。

 

(3)売上原価の売れ残り情報である在庫の状況を見る

 すでに「棚卸資産の読み方」で説明しましたが、原価の売れ残り状況ともいえる「在庫の状況」を併せて読むことも重要です。

特に、在庫はあり過ぎると必ずデッドストックの素となります。

 在庫の適正量を守ることが大切です。在庫を適正維持するのは「ヒト」です。

その意味では従業員の士気や自覚、注意力を高めることが大切です。

そのためには先ほども述べたとおり、適正な両道分配率のもと、人のやる気を起こさせることが重要です。

在庫はあり過ぎると必ずデッドストックの素となる! 

 

 

このように売上原価も会計のやり方次第でいろいろな情報を提供してくれます。

また、いろいろな情報はいろいろなことと関係していますので、狭く見て、広く捉えることが大切です。

そのような考え方のもと行う会計を管理会計と言い、いまはパソコンソフトで容易に管理会計が駆使できるようになりました。

もう、どんぶり勘定や勘ははるか過去のものとなり、管理会計と会計で読む力がいま問われているのです。

 会計はたのしい!