567.資金に強い損益体質・経営をする
2022年5月28日
前回は「資金に強い財務体質・経営をする」というテーマで、
決算書のB/Sをどう読めばよいのか、どのような方向で改善を考えればよいのかについて説明しました。
今回はP/Lへ目を移し、「資金に強い損益体質・経営をする」というテーマで損益の見方・改善の方向について考えます。
1 決算書の損益だけでは振り返ることはできない
いきなり否定的なことをいいますが、そもそも決算書のP/Lだけで、損益の状況を振り返ることはできません。
その理由はなぜか?
それは決算書のP/Lだけではあまりにも情報が集約し過ぎており、細部の状況を突き詰めることができないからです。
たとえば、売上を「総売上高」だけ見ても問題点を探ることは出来ません。
できることといえば、前年と比べて増加したのか・減少したのかがわかるぐらいで、
何がどうして増加したのか、あるいは減少したのかについてはわかりません。
したがってそれ以上は記憶に頼るしかありません。しかし、記憶ほど曖昧なものもありません。
ですから、どうしても決算書のP/Lのほかに管理会計のP/Lが必要となるわけです。
損益を振り返るには管理会計のP/Lがどうしても必要です!
もし管理会計のP/Lを作成していないのであれば、それがまず第一の「経営改善事項」になります。
また、これはB/Sも同じですが、終了した決算書だけを毎年見ても、経営改善はなかなか成し遂げられません。
つまり、一年に1回しか見てももう後の祭りで、いま・これからに活かすためには、毎月の月次試算表を見るようにすれば、
現状の改善を成し遂げられる可能性が大きくなります。
経営改善は連続技をかけることが大切! それは月次試算表を読むことから始まる!
2 資金に強い損益体質・経営とは
では、「資金に強い損益体質・経営」とはどのようなことを指すのでしょうか。
それはスバリ、「黒字経営」を継続し、「人件費」を上げる経営です。
(1)黒字経営を続けるということは
黒字経営を継続させるには
1.少しでも増収させる
つまり、売上を少しでも増加させることです。売上は「資金の源泉である」ということを忘れないでください。
2.増益させる
つまり、各段階の利益を増やすことです。
まず、市場に向けて努力をして売上総利益を増やします。
次に、社内努力で営業利益を増やします。
そして、マネジメント力で経常利益も増やし、手元資金を高める経営をすることです。
3.過度な節税対策をしない
節税対策とは結局のところ、経費を増やして納税額を減らすことに他なりません。
つまり、無駄遣いをして利益を減らすわけですから、手元資金は増えません。
このような3つの戦略で黒字経営を続けることで、自己資本(純資産)が増えるのです。
そのためには「納税」をしなければ、自己資本は増えないということです。
節税して納税額を抑えるということは、経費を増やして利益額を少なくするということです。
その他の方法は、すべて「脱税」であり、違法です。
事実、節税を熱心にしている企業で、資金に強い経営をしている企業はありません。
しっかり黒字経営を続けて、しっかり納税すること、それが大切です!
(2)人件費を上げる経営とは
では、「人件費を上げる経営」とはどういうことなのでしょうか。
増収・増益させるのは、すべてヒトです。つまり「従業員」です。
したがって、黒字経営を支えるのは従業員の士気であり、ヤル気です。
そこでその士気やヤル気の源泉には経営者の姿勢とか、公正な評価制度とか、仕事のやりがいなどいろいろありますが、
それらの中で一番影響が大きく、またベースにあるものが「賃金」なのです。
この賃金に対する従業員の納得感・満足感が大切です。
統計的に中小企業の賃金は低いことは事実です。
いま、一番賃金アップを求められているのは中小企業なのです。
この賃金アップができれば、素晴らしい人材育成や人材獲得もしやすくなります。
増収・増益を支えているのは従業員 その従業員の期待に応える一つが「賃金」です!
3 資金に強い損益の読み方
(1)売上高
資金の源泉である「売上高」を増やすことは大切です。
これが増収傾向にあればいろいろな打ち手も可能となりますので、売上状況をしっかり読む必要があります。
そのためには以下のようなことが大切です。
①まず少なくとも、売上高は継続売上高と新規売上高に分けて管理する
そうすると、増収・減収の原因が継続売上高の解約や値引きにあるのか、それとも新規売上高の伸びにあるのか、
伸びていないことにあるのかがわかり、打ち手の焦点が定まってきます。
②売上計画は必ず立てる
売上計画は企業の航路です。
特に売上高に関して継続売上高と新規売上高に分けて立案すると、計画に対する状況も明らかになります。
③得意先別に売上は管理する
加えて得意先別にも売上管理をします。
得意先ごとの売上状況がわかるようになると得意先ごとに個別の方策が考えられるようになります。
④増収の基本は、値上げ交渉と新規売上
売上は「単価×数量」という掛け算です。
したがって売上を増やすためには、値上げを試みるか、新規の得意先を増やすかです。
新規売上とは新規顧客との取引開始はもちろんですが、既存顧客との新しい取引開始も含まれます。
経営環境がどうであれ、分配の増加や経費の増加のことを考えれば
売上高は基本的にたとえ僅かでも、毎年増収させたいものです!
(2)売上原価・売上総利益
次に売上総利益を増やす増益の考え方です。
①実地棚卸の強化
売上原価はなるべく増えないように管理をします。その舞台裏が「実地棚卸」なのです。
②効果が出るようになるまで実地棚卸の回数を増やす
実地棚卸は年1回でよいとか、月1回でよいとか、決められた回数はありません。
実地棚卸によって売れ残りの減少とデッドストックの解消の効果が出るまで、実地棚卸の実施間隔を短くします。
すると必ず、在庫が抑制でき、売上原価は下げられます。
売上高が少しでも増加し、売上原価が下がれば、売上総利益は増益となります。
いま大事なことは売上総利益率の改善よりも売上総利益の増収です!
(3)販管費・営業利益
売上総利益が増収できれば、あとは販管費を抑えることで、さらに増益の幅を広げることが出来ます。
①人件費とその他経費に分けてマネジメントを行う
販管費には人件費とその他経費が含まれますが、販管費のマネジメントは人件費とその他経費に分けて行います。
②人件費のアップがこれからの中小企業経営の分かれ目
人件費を増加させることは、中小企業にとっては凄く大事なことです。
それが未来に生き残れる条件となります。
③労働分配率の管理は雇用形態ごとに行う
これからはヒトが創造する付加価値が勝負です。
そのためには労働分配率管理は、正社員・パートアルバイト・役員に分けて行い、人事管理をする必要があります。
④人件費や経費は費目管理で行う
会計からの情報量を増やすためには、入力データの細分化が必要です。
少なくとも、科目別費目管理は行いたいものでです。
⑤経営計画と処遇改善を結び付ける
経営計画を達成した場合、待遇がどのように改善されていくのか、結び付けることが大切です。
⑥その他経費の増加は極力抑える
その他経費は前年並み又は前年比減が基本です。
その他経費が抑えられれば、その分、人件費に回せることを全員に伝えることは大事なことです。
売上総利益が増益し、人件費は増加させてもその経費を抑えられれば、営業利益は増益になる可能性が高くなります。
いま大事なことは人件費を増やし経費を抑えて
営業利益率の改善よりも営業利益を増収させることです!
(4)営業外損益・経常利益
最後が経常利益です。
①基本は営業利益ベースで黒字化させることです。
②それに加えて、借入金を抑え営業外費用を減らせれば、経常利益は増益となります。
いま大事なことは営業外費用を抑えて
経常利益率の改善よりも経常利益を増収させることです!
4 資金に強い損益体質・経営の対策
ここまでの説明でおおよその対策の見当が付いたかと思います。
ここでは、具体策は企業によって違いますので、その方向性を考えたいと思います。
(1)従業員人件費を増やす
何と言っても会社を改善する主役は「従業員」です。
その従業員の士気とやる気を上げねばなりません。
そのテコが「人件費アップ」なのです。
やはり伸びる企業は、顧客や取引先よりも、従業員を大切にしている会社です。
従業員オリエンテッド(従業員第一主義)が損益体質を変える!
(2)顧客は個客
お客様を「十把一絡げ」に捉えていませんか。
たとえば顧客が20件あり、1件から苦情が寄せられたとします。
そうすると20件の中のたった1件、5%だからあまり大したことがないと高を括っていませんか。
しかし立場を変えれば、その1件にとっては100%の苦情なのです。
顧客1件・1件のニーズや要望は違うのです。
私たち中小企業は、幸いにお客様数が大企業よりも少ないという利点があります。
この利点を活かして、痒い所に手が届くような営業戦略を考えてみましょう。
中小企業の利点を活かし、ワンツーワンマーケティングを実践する!
(3)率先垂範
中小企業には特別扱いはありません。
経費節減する場合、率先垂範することが大事です。
社長自ら経費節減を率先して行えば、それを従業員の方も見て習っていきます。
そんな形を意識したいものです。
経費節減は率先垂範が大事!
(4)経営計画
従業員の皆さんに、今期進むべき進路を見せなければなりません。
そうでないと、従業員の皆さんはどこへ進めばよいのかわかりません。
その役目を成すのが「経営計画」です。
経営計画をもって進むべく道を全員に説明する!
このほかにもいろいろと対策はあるかと思います。
ぜひ、決算書のP/Lを読みながら、それらのことも考えましょう。
このように、会計に対する理解が深まれば深まるほど、それだけ経営技術を向上させることが出来ます。
つまり、会計のルールには、健全な経営をしていくための意味が隠されているのです。
だから、科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営をする道すじが見えてくるようになります。
もう、どんぶり勘定や勘ははるか過去のもの、現代・近未来は管理会計と会計で読む力がいま問われているのです。
会計はたのしい!