569.リスクヘッジ仕訳 貸倒引当金
2022年6月12日
再更新日:2022.07.13
会計には経営をリスクから守る仕組みがあります。そのことを「リスクヘッジ」といいます。
リスクヘッジとは、起こりうるリスクをある程度予測し、そのリスクに対応できる体制をあらかじめ取っておくことです。
会計には次のような仕組みがあります。
1.資金の調達と資金の運用の面から企業の財政状況を貸借対照表として明らかにする
2.資金の源泉と資金の使途の面から事業の損益状況を損益計算書として明らかにする
3.損益計算書の当期利益を貸借対照表の繰越利益剰余金に組み込みB/SとP/Lを結び付ける
4.引当や償却・棚卸などの特殊な仕訳をすることで、健全な経営を執行するためのリスクヘッジをする
このような仕組みで会計は企業を健全な経営に導くようにしています。
今回から数回に渡ってそんな会計の仕組みを『リスクヘッジ仕訳』と題して、わかりやすく説明します。
その第1回めは『貸倒引当金』です。
1 貸倒引当金とは
得意先の突然の倒産などによって、売掛金や受取手形の売上債権が回収できなくなることは、どの企業でも起こり得えることです。
『貸倒引当金』とはそんな突然のリスクに備えて、あらかじめ一定の基準で売上債権が回収できなくなることを算定し、
流動資産からその額を除外しておくことで、安全な経営が執行できるようにする仕組みなのです。
そのような理由から『貸倒引当金』は、流動資産のその他流動資産に表示されていますが、マイナス項目として表示され、
その分を流動資産資産合計から除いて経営判断できるようになっています。
貸倒引当金が流動資産にマイナス表示されていることには意味がある!
なお、この貸倒引当金は、平成23年度の税制改正で貸倒引当金制度を適用できる法人を大幅に縮減しています。
その結果、大法人では金融保険業等営む法人以外は適用できなくなり、中小企業の保護を目的とした、中小企業のための制度と
なっています。
貸倒引当金は中小企業を保護するための制度なのです!
2 貸倒引当金の仕訳
では、貸倒引当金はどのような仕訳で設定するのでしょうか。
(1)設定・繰り入れる(増やす)とき
たとえば、貸倒引当金を50万円と見積もり、50万円を繰り入れるときには、次のような仕訳をします。
【P/L】貸倒償却 50万円 / 【B/S】貸倒引当金 50万円
※解説:販管費の「貸倒償却」に50万円計上するとともに、流動資産のマイナス科目である「貸倒引当金」にも50万計上します。
なお、すでに貸倒引当金を設定していて増加させる場合も増加させる金額だけを同様に仕訳をします。
(2)繰り戻す(減らす)とき
たとえば、貸倒引当金を10万円と見積もったが、すで貸倒引当金を30万円計上しているので20万円減額したいときは、
次のような仕訳をします。
【B/S】貸倒引当金 20万円 / 【P/L】貸倒償却 20万円
※解説:「貸倒引当金」はB/S流動資産科目のマイナス科目ですから、この仕訳で20万円が減額され、販管費の「貸倒償却」も20万円
減ります。
(3)実際に貸倒れが起こったとき
①貸倒引当金内の売掛金が貸倒れたとき
たとえば、売掛金20万円が貸倒れたが、貸倒引当金は30万円引当てている場合は、次のような仕訳をします。
【B/S】貸倒引当金 20万円 / 【B/S】売掛金 20万円
※解説:「貸倒引当金」はB/S流動資産科目のマイナス科目ですから、この仕訳で20万円が減額され、同時に売掛金も20万円減ります。
②貸倒引当金以上の売掛金が貸倒れたとき
たとえば、売掛金50万円が貸倒れ、貸倒引当金は30万円しか引当てていない場合は、次のような仕訳をします。
【B/S】貸倒引当金 30万円 / 【B/S】売掛金 30万円
【P/L】貸倒損失 20万円 / 【B/S】売掛金 20万円
※解説:「貸倒引当金」を超えた分は、P/Lの営業外費用「貸倒損失」として20万円計上します。
3 貸倒引当金の見積方法
では、そんな貸倒引当金をどのように見積もればよいのでしょうか?
単純に経営者の判断だけで好きなだけ金額を計上することは、会計ルール上認められていません。
基本的には次の算式で、貸倒引当金を見積することになっています。
貸倒引当金の見積額=売上債権の期末残高×設定率
設定率は「過去3年間の貸倒損失発生額」に基づいて計算することになっています。
しかし、中小企業の場合は業種ごとに「法定繰入率」の特例がありますので、それによって設定してもよいことになっています。
《中小企業の法定繰入率》
1.製造 1000分の 8
2.卸売及び小売・飲食 1000分の10
3.金融・保険 1000分の 3
4.割賦・信用斡旋 1000分の13
5.その他 1000分の 6
4 貸倒引当金によって得られる効果
(1)経営の安全性が増す
貸倒引当金を活用することで「経営の安全性」が増します。
なぜなら、売上債権をよりシビアに評価することになりますので、事業の安全性などが厳しく管理できるようになるからです。
つまり、突然の得意先倒産の影響を事前に備えて経営判断できますので、その影響をある程度抑える効果があります。
(2)流動比率、当座比率など厳しく判定できる
具体的には、流動資産評価を貸倒引当金分だけ抑えて評価していますので、流動比率を自ずと厳しく見ていることになり、
安全性の判断基準が高くなります。
貸倒引当金を利用しない場合の流動比率 =流動資産÷流動負債×100
貸倒引当金を利用している場合の流動比率=(流動資産ー貸倒引当金)÷流動負債×100
※ここではわかりやすく説明するためにわざわざ「流動資産ー貸倒引当金」と記載しましたが、実際は貸倒引当金を利用している場合、
貸倒引当金を差引した流動負債合計が表記されています。
同様に、当座比率を見るときも当座資産から貸倒引当金を減産して計算すれば、当座比率も厳しく見ることができますので、
経営の安全性が高まります。
貸倒引当金は経営の安全性を高める効果がある!
このように、会計に対する理解が深まれば深まるほど、それだけ経営技術を向上させることが出来ます。
つまり、会計のルールには、健全な経営をしていくための意味が隠されているのです。
だから、科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営をする道すじが見えてくるようになります。
もう、どんぶり勘定や勘ははるか過去のもの、現代・近未来は管理会計と会計で読む力がいま問われているのです。
会計はたのしい!