573.リスクヘッジ仕訳 リース
2022年7月10日
会計には経営をリスクから守る仕組みがあります。
そのことをリスクヘッジと呼びますが、
リスクヘッジとは起こりうるリスクをある程度予測し、そのリスクに対応できる体制をあらかじめ取っておくことをいいます。
そこで、会計には次のような仕組みがあります。
1.資金の調達と資金の運用という面から企業の財政状況を貸借対照表として明らかにする
2.資金の源泉と資金の使途という面から事業の損益状況を損益計算書として明らかにする
3.そして損益計算書の当期利益が貸借対照表の繰越利益剰余金へ組み込まれ、B/SとP/Lを結び付けている
4.さらに引当や償却・棚卸などの特殊な仕訳をすることで健全な経営を執行するためのリスクヘッジをする
このような仕組みで、会計は企業を健全な経営に導くようになっています。
これまでの『リスクヘッジ仕訳』の目次
第5回の『リスクヘッジ仕訳』は『リース』についてです。
1 リースとは
リースとは、英語で「賃貸借」という意味ですが、日本では「リース会社が企業に対して機械や設備を長期間賃貸する」という
意味で使われています。
たとえば、機械や設備などをリースするときは、まず対象物件を決め、そしてリース会社にリース申し込みをします。
その後、リース会社と契約し、メーカー・販売会社からその物件が直接納入されます。
物件が納入されたあとは、リース料の支払がスタートします。
リース会社はリース物件の所有権をもっていますので、リース会社がリース物件に保険をかけ、リース物件の設置場所である
市区町村に固定資産税を納めます。
これがリースの概要ですが、では、会計処理はどうすればよいのでしょうか?
2 リース物件の会計処理
一番多く、中小企業で採用されているリースに関する会計処理は、P/Lに「リース料」という科目を設定して、
次のように行われています。
P/L費用科目:リース料 120,000 /B/S資産科目:現金又は預金 120,000
これで一見、問題ないように思われます。
確かに、多くの場合はそれでよいと思いますが、しかし、製造業や卸売業など、高額な機械や設備をリース契約している場合は、
少々経営管理的に問題があります。
というのは、上記の会計処理では事業の生産性分析や資金使途分析に大きな影響を与えているリース物件が、その分析に反映
されないという点です。
「リース料/現預金」という仕訳では
リース物件の生産性や資金使途分析ができません!
したがって、その問題を解決するためには、次のような管理会計的な会計処理を行う必要があります。
3 リースの種類
管理会計的な会計処理を説明する前にリースの種類について確認しておきましょう。
一口に「リース」と言っても、その契約内容によって3種類のリース契約があります。
(1)所有権移転ファイナンス・リース
一つ目は、リース終了後、対象物件の所有権がリース契約者に移転する「所有権移転ファイナンス・リース」と呼ばれる
リース契約です。
このリース契約はリース会社からおカネを借りて機械を購入し、その機械を使いながら借りたおカネと利子を返済し、
それが満了すればその機械の所有権はリース契約者に移転する契約です。
「リース」という名称こそは付いてますが、その内容はほとんど購入しているのと変わりありません。
ただ途中解約はできず、その間に機械が故障すればその修理代もリース契約者が負担し、リースが満了になればその物件は
リース契約者の所有となります。
つまり、金融機関から融資を受けて機械設備を購入する場合と全く同じです。
ただ違うのは、借り先が金融機関ではなく、ノンバンク系企業だという点だけです。
(2)所有権移転外ファイナンス・リース
二つ目は、リース契約が満了しても、対象物件の所有権が移転しない「所有権移転外ファイナンス・リース」です。
移転 ”外” 、移転しないというところが、前例との違いです。
この契約は、前項の所有権移転ファイナンス・リースとほとんど同じですが、リース期間満了後の取扱いだけが違います。
つまり、リース期間が満了しても、物件はリース契約者のものにはなりません。
リース満了後も使い続けるためには再リース料を支払うか、あるいは買い取るか、どちらかの選択になります。
日本のリース契約はほとんどの場合が、この「所有権移転外ファイナンス・リース」です。
(3)オペレーティング・リース
三つ目は、ただリース会社から対象物件を借りているだけの「オペレーティング・リース」です。
この契約はリース会社から借りているだけの契約です。
借りているだけですから、故障した場合にはリース会社が修理代を負担し、契約者が機械を保有している実態もなければ、
おカネを借りている実態もありません。
リース期間が終了すれば、借りている物件は返却します。長期レンタルのような契約です。
リース契約には所有権移転・所有権移転外・オペレーティングの
3つの形態があります!
この形態に即した会計処理をしないと、本当の自社の財務状態が把握できません。
3 管理会計としてのリースの仕訳
(1)所有権移転または所有権移転外ファイナンス・リースの場合
事例として、キャッシュで購入した場合の価格が500万円、リースしたときの支払総額は600万円(12万円×50回)とします。
【取得したとき】
B/S資産科目:リース資産 5,000,000 /B/S負債科目:リース債務 5,000,000
※解説:リース資産は購入した時と同じ価格で計上し、リース債務はリース総額ではないことに注意します。
この仕訳で、リースで設備投資をしたことが月次試算表や決算書に反映されます。
【リース料を支払ったとき】
①B/S負債科目:リース債務 100,000 /B/S資産科目:現金又は預金 120,000
P/L費用科目:支払利息 20,000
②費用科目:減価償却費 100,000 /資産科目:減価償却累計額 100,000
※解説:①でリース料12万円は元金部分がリース債務の減少に、利息部分は支払利息に計上します。
②減価償却費も元金部分を毎月計上します。
【決算のとき】
①B/S資産科目:減価償却累計額1,200,000 /P/L費用科目:減価償却費1,200,000
②P/L費用科目:減価償却費 1,200,000 /B/S資産科目:リース資産1,200,000
※解説:①で一旦、概算の減価償却費を洗い替え(ゼロクリア)します。
②機械購入した場合と同じ方法で正式な年間減価償却費を計算し、再度、減価償却費を計上するとともにリース資産を減算させます。
(2)オペレーティング・リースの場合
事例として、キャッシュで購入した場合の価格が500万円、リースしたときの支払総額は750万円(15万円×50回)とします。
【取得したとき】
資産の取得も借入もありませんから、仕訳は必要ありません。
【リース料を支払ったとき】
P/L費用科目:リース料 150,000 / B/S資産科目:現金又は預金 150,000
※解説:ただ単に「借りている」だけですから、リース料に対して元金部分も利息部分もありません。
また、自分の資産でもありませんから、減価償却費も発生しません。
【決算のとき】
仕訳は必要ありません。
このように、実態に即した会計処理をすれば、作成される毎月の試算表にも、本当の会社の財政状況が現れます。
このように、会計に対する理解が深まれば深まるほど、それだけ経営技術を向上させることが出来ます。
つまり、会計のルールには、健全な経営をしていくための意味が隠されているのです。
だから、科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営をする道すじが見えてくるようになります。
もう、どんぶり勘定や勘ははるか過去のもの、現代・近未来は管理会計と会計で読む力がいま問われているのです。
会計はたのしい!