574.リスクヘッジ仕訳 積立
2022年7月16日
再更新日:2022.08.16
会計には経営をリスクから守る仕組みがあります。
そのことを「リスクヘッジ」といいます。
リスクヘッジとは、起こりうるリスクを事前に想定し、そのリスクに対応できる体制をあらかじめ取っておくことをいいます。
そこで、会計には次のような仕組みがあります。
1.資金の調達と資金の運用という面から企業の財政状況を貸借対照表として明らかにする
2.資金の源泉と資金の使途という面から事業の損益状況を損益計算書として明らかにする
3.損益計算書の当期利益が貸借対照表の繰越利益剰余金へ組み込まれ、B/SとP/Lを結び付けている
4.引当や償却・棚卸など、特殊な仕訳をすることで健全な経営をするためのリスクヘッジをする
このような仕組みで、会計は企業を健全な経営に導くようになっています。
これまでの『リスクヘッジ仕訳』の目次
第6回目の今回のリスクヘッジは『積立』です。
1 会計でいうところ積立金とは
会計で「積立金」という言葉があります。
積立金には、会社法で定められていない株主総会の決議だけで積み立てられる任意積立金のほか、
会社法で定められている利益準備金や資本準備金があります。
つまり、積立金には株主総会の決議だけで積み立てられる任意積立金と、会社法という法律で定められている準備金とがあります。
それぞれの内容は次のとおりです。
①任意積立金
株主総会の決議さえあれば任意に積むことができ、金額の制限もありません。
②利益準備金
会社法で定められており、配当金の10分の1を積み立てなければならない決まりです。
利益準備金と資本準備金を合わせて、資本金の4分の1が上限となります。
③資本準備金
会社法で定められている法定準備金で、資本金の2分の1を超えない額を積み立てることができます。
今回説明する「積立」はそのような積立金ではなく、実務的にもっと大切なものです。
これから紹介する積立をコツコツすれば、あなたの事業をさらに資金的に強くします。
積立はあなたの事業をさらに資金的に強くする!
2 積立とは
これから紹介する積立は、これまで紹介した中で、比較的、引当金と似た概念です。
しかし、引当金は形而上だけの概念ですが、積立は形而下的な概念なのです。
つまり、引当金は流動資産や流動負債・固定負債に設定し、将来的なリスクを勘案した財政状況は判断できることにはなりますが、
実際にそのことが生じた場合には資金的な裏付けがありませんから、対応できるかどうかは別問題となります。
しかし積立は、将来的なリスクに備えて実際に資金を貯めておくことですから、実際にそのことが生じた場合には資金的な対応が
可能となります。
引当金は形式的なリスク対応ですが、積立は現実的なりクス対応です!
要するに、引当金は資金的な裏付けは別問題ですが、積立は資金的な裏付けが伴った対応ということになります。
3 どんな積立が必要なのか
では、経営をしていく上で、どのような積立が必要なのでしょうか。
それは将来必要と思われる「ある程度まとまった資金すべて」という言い方ができます。
たとえば、賞与支給もその一つとして考えられます。
さらに消費税の納税、法人税等の納税、設備投資の資金、退職金の支給などもその一つとして考えられます。
それぞれの企業の立場で考えれば、他にも思い浮かぶかと思います。
少し、ある程度共通すると思われる積立について考えてみましょう。
①賞与支給
一般的には半期単位で賞与支給しますので、夏と冬にまとまった資金が必要となります。
そこで、その6分の1を毎月積み立てることになります。
あるいは賞与引当金を設定している場合ならば、その金額を積み立てることになります。
②消費税の納税
簡易課税企業であれば「{税抜売上高ー(税抜売上高×みなし仕入れ率)}×10%」が、消費税納税に必要な概算資金と
なります。
毎月、月次売上高をもとにその金額を算出し、その金額を積み立てることになります。
本則課税企業であれば「仮受消費税ー仮払消費税」が、消費税納税に必要な概算資金となります。
毎月の仮受消費税から仮受消費税を差し引いた金額を積み立てることになります。
③法人税等の納税
予想経常利益の35%程度の資金が、法人税等の納税のために必要となります。
その12分の1を毎月積み立てていくことになります。
④設備投資の資金
投資計画があるのであれば、それによることになります。
なければ、減価償却費の累計額となります。
毎月の減価償却費相当の金額を積み立てることになります。
⑤退職金の支給
従業員の年齢構成などを参考に、将来支給する退職金を算出し、その金額に向けて、毎月積み立てることになります。
あるいは退職給付引当金を設定している場合は、その金額を積み立てることになります。
但し、この退職金に対する積立は企業によってはかなり先のことにもなりますので、①~④と比べれば、それほどストイックに
積立する必要はないのかもしれません。
このように考えていくと、かなりの手元資金が必要なことがわかります。
健全な経営をするためには、かなりの手元資金が必要なことを知ろう!
4 仕訳の考え方
これら積立用の口座を開設している場合には、その口座に上記の資金を毎月振替えます。
ただし、会計ソフトで上記の資金ごとに口座管理設定を行い、何の目的の資金がいくらあるのか、確認できるようにします。
積立用の口座を開設していない場合は、預金科目を上記の資金ごとに口座管理設定と、プラス「運転資金」という名称の口座も
設定し、入金はすべて一旦「運転資金」口座に入力します。
そして、「運転資金」口座からそれぞれの資金口座に振替えるようにします。
このように手元資金を管理すると、より堅実な経営ができるようになります!
このように、会計に対する理解が深まれば深まるほど、それだけ経営技術を向上させることが出来ます。
つまり、会計のルールには、健全な経営をしていくための意味が隠されているのです。
だから、科目の読み方や意味がわかれば、健全な経営をする道すじが見えてくるようになります。
もう、どんぶり勘定や勘ははるか過去のもの、現代・近未来は管理会計と会計で読む力がいま問われているのです。
会計はたのしい!