24.設備投資力②固定長期適合

2009年11月9日

財務分析解説コラム(8) 当社の設備投資には無理がないか -固定長期適合率-
前回から会社の設備投資について「無理がないかどうか」を見る財務分析について説明しています。今回はその第2回『固定長期適合率』です。

固定長期適合率なのか、長期固定適合率なのか
書籍とかウェブサイトを見ると、「固定長期適合率」と書いてあったり、「長期固定適合率」と書いてあったりしています。一体どちらが正しいのでしょうか。どちらでもよいと言えばどちらでもよい話ですが、正しくは『固定長期適合率』です。意味が「固定比率の長期的な適合率」なので、「長期」という言葉は適合率にかかります。固定比率の「固定」という言葉には元々「長い」という意味がありますので、「長期固定」だと、長いという意味が二重にかかることになります。よって、正しくは『固定長期適合率』となります。チョッとした薀蓄でした。

固定長期適合率とは
『固定長期適合率』を理解するためには、前回説明した『固定比率』を思い出してください。固定比率とは安全性分析のひとつで、固定資産に対してどの程度、純資産(自己資本)で賄われているかを示す財務分析でした。ですから計算式も、 固定比率=固定資産÷自己資本 でしたね。しかし現実的には、固定比率が100%以下の場合はほとんどありませんと説明しました。資産家による起業や老舗企業の場合を除き、事業を行う際に自己資金だけで起業できる場合は限られます。そこで、固定比率を補完する財務分析として『固定長期適合率』があるわけです。考え方は、設備等が自己資本で賄えない場合は、「せめて長期的返済資金である銀行融資を加えた資金で説投資等をしましょう」という考え方です。ですから『固定長期適合率の計算式は次の通りとなります。
計算式:長期固定適合率 = 固定資産 ÷ (自己資本+固定負債)
つまり、設備投資(固定資産)の原資として、自己資本だけでなく固定負債も加えて考えるわけです。固定負債とは他人資本であり、返済期限が1年を超える負債でしたね(そうでないものを「流動負債」と呼びましたよね)。具体的な固定負債には、長期借入金・役員借入金・社債・退職給与引当金等がありますが、中小企業では主に長期借入金(銀行融資)と役員借入金です。家計で例えれば、マンションや一戸建てを思い切って購入する場合、皆さんはどうされますか。普通は、自己資金と住宅ローンを組んで購入しますよね。もしも友人から「自己資金と住宅ローンだけでは足りずに、消費者ローンと少しサラ金から金を借りたよ。」なんていう話を聞かされたら、あなたはどう答えますか?恐らく「そんな無理して大丈夫?」って心配しますよね。企業経営も同じです。設備投資に資金が足りないからと言って、自己資本や固定負債以外に流動負債を源泉にしてはいけません。

固定長期適合率の見方
いま、説明したように固定比率と違い、『固定長期適合率』が100%を超えることは原則ありません。もしそうだとしたら、火急に改善しなければなりません。ちなみに、業種別の『固定長期適合率』は次のとおりです(中小企業庁「中小企業の財務指標」より)。
①建設業 59%  ②製造業 70%  ③情報通信業 39%  ④運輸業 80%  ⑤卸売業 56%  ⑥小売業 70%  ⑦不動産業 84%  ⑧飲食宿泊業 102%  ⑨サービス業 68%
ご覧のとおり、「どの業種も100%以下です」と言いたかったところですが、飲食宿泊業をだけは、2%だけ100%を超えています。これはご想像のとおり、スクラップ&ビルドが激しい業種で、そのことが『固定長期適合率』を見ても良く表れています。特に飲食業においては、低価格化の波が押し寄せるとともに、雰囲気の良い店内にしないとお客さんが入りませんので、内装費が非常に高くつくようになっています。設備投資に際しては、入念な採算計画を立案し、無理な出店計画をしないことが重要です。加えて、争点を
外観に求めないことも重要です。

固定長期適合率を改善するには
計算式から考えれば、固定資産を減らすか、自己資本並びに固定負債を増やすかのいずれかということになりますが、現実的には「如何に固定資産(設備投資)を減らすか」が肝要です。現在の経営環境時だけでなく、業績の見通しというものはいつも不明確です。とするならば、不要な固定資産を減らすこと、これが経営者の意思決定として求められます。
(1)固定資産を減らして固定長期適合率を改善する
自己資本と固定負債が一定だとすれば、固定資産を減らせば、それだけ『固定長期適合率』は改善されます。では、具体的にはどのような方法があるのでしょうか。ひとつは遊休資産がありませんか。「業務用自動車はどうですか?」意外と処分してもいい業務用車両があるものです。あまり稼働率が高くなければ処分しましょう。車両を処分すれば、車両費も削減できますので、コストダウンにも繋がります。「機械・設備はどうですか?」その機械や設備はどうしても要りますか。あまり使用する機会がないのであれば売却しましょう。機械・設備はすぐ陳腐化します。売却は早ければ早いほど、少しでも高く売却できます。もうひとつは不良資産です。たとえ不良資産でも固定資産には計上されており、いくらかの帳簿価額がついています。処分すれば、その金額だけ固定資産は減ります。
(2)自己資本と固定負債を増やして固定長期適合率を改善する
自己資本が増えれば、あるいは固定負債が増えれば、『固定長期適合率』は改善されます。「自己資本を増やすなんて、なかなか・・」とお考えの社長さんが多いかと思いますが、『固定長期適合率』が100%を超えている事態はそんな悠著なことを言ってられません。「無理」と決め込んでは改善ができませんので、その固定観念を払拭してチャレンジしましょう。自己資本を増やすには、利益拡大による内部留保の積み増ししかありません(固定比率の改善方法として、役員借入金を資本金に組み入れると説明しましたが、『固定長期適合率』の資金源泉は自己資本と固定負債ですので、この方法では『固定長期適合率』を改善することができません。念のため)。利益拡大とは「売上-経費=利益」という残った金額が利益だという考え方ではなく、計画した利益を確保するために「売上―利益=経費」という考え方で、「目標利益を確保するために経費を抑える」という考え方を徹底し、経費管理を行うということです。さらに原価率を抑え、売上総利益を増やすことです。そして、最後に売上高を増やすことも考えます。売上高拡大については、現在は市場収縮の時代です。したがって、「従来よりも販売地域を拡大する」という考え方が基本的になります。国内でいえば、地元からエリアへ、エリアから全国へという考え方であり、さらに海外進出ということになります。利益拡大は、財務体質改善の万能薬です。たとえ僅かでも利益が増えれば、会社の勢いも高まってきます。がんばりましょう。次に、固定負債を増やすということです。具体的には金融機関と交渉し、短期借入金を長期借入金に借換えすることです。あるいはさまざまな資金融資制度がありますから、それらを活用して新規長期借入金を調達することです。「こんな状況じゃ難しいだろう」と思われるかもわかりません。またその通りかもしれません。しかし、経営者は評論家でもなければ傍観者でもありません。プレイヤーなのです。例えそうであっても、トライするしかありません。それだけ、『固定長期適合率』が100%を超えているということは異常なことであり、ピンチな状況であるわけです。「ピンチをチャンスに」とよく言いますが、そんな気楽な状況でないのかもわかりません。しかしここを打開するためにも、「ピンチをチャンスに」という積極的な気持ちを持って、行動するしかありません。

時代は大きく変わり、『膨張の時代』から『収縮の時代』に移っています。ということは、シンプルですが「これまでと同じことをやっていてはダメ!」ということです。会計資料を読み解いて、自社の現況を把握し、改善の方向を明確にすることが、その基本となります。いままでは確かに、会計資料が少々読めなくとも市場がどんどん大きくなる膨張の時代でしたから、さほど困ることになりませんでした。しかし今は『収縮の時代』ですから、会計が読めないと経営の危機がそこに迫っていることに気づくこともできず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うことになります。時代は違っているのです。自社にちょっとしたチェンジというスパイスをふりかけましょう。

次回もお楽しみに・・