25.融資申込余力①借入月商率

2009年11月16日

財務分析解説コラム(9) 当社に融資申し込みできる余地はあるのか -借入金対月商倍率ほか-
資金繰りで悩んでおられる経営者は多いかと思います。今回はそんな経営者のご要望にお応えし、「我が社に融資申し込みできる余地はあるのか」を検証できる財務分析について説明します。

融資申し込みできる余地とは
最終的に融資決済するのは金融機関ですから、実際に自社に融資申し込みできる余地があるのかどうかは、金融機関の判断を待つしかありません。ここで言う「融資申し込みできる余地」とは、あくまでも第三者の立場で「融資申し込みをした場合、検討される余地が高いか、低いか」を事前に予測することにあります。しかしその目的は「ああ、やっぱり難しいのか」で終わるのではなく、その事前予測に対して、融資申し込みが実行され易いように金融機関の説得材料を準備することにあります。

融資申し込みできる余地は3つの財務分析で検証する
「融資申し込みできる余地」を検証する財務分析は3種類あります。一つは『借入金対月商倍率』、二つめは『債務償還年数』、三つめは『ギアリング比率』です。それぞれについて説明します。
(1)借入金対月商倍率
『借入金対月商倍率』とは、文字通り「借入金が月商の何倍あるか」という指標です。計算式は次の通りです。
計算式:借入金対月商倍率=(短期借入金+長期借入金+割引手形)÷月平均売上高
一般的に言われている判断基準はおおよそ以下の通りです。
安 全   要注意   危 険
製造業  1.5   3.0   6.0
卸売業  1.0   1.5   3.0
小売業  1.5   3.0   6.0
当社は如何ですか。もしこれ以上であれば、何か担保力を示す準備をしておくとか、事業の将来性について説明できるようにしておくなどの準備が必要です。
(2)債務償還年数
『債務償還年数』とは、有利子負債を全額返済できるまでの年数を示します。有利子負債とは、会社が利子をつけて返済しなければならない負債のことです。中小企業の場合は金融機関からの借入金となります。負債の中でも、買掛金・支払手形・未払金などは利子がかからないため、有利子負債には含まれません。計算式は次の通りです。
計算式:債務償還年数=有利子負債÷(営業利益+減価償却費)
債務償還年数が10年以内であれば、おおよそ、その会社の返済能力は「良し」と考えられます。10年超であれば「要注意」と考えられますが、中小企業の平均値は12.4年ほどです。『債務償還年数』の詳細については「債務償還能力は大丈夫か①」で説明してありますので、詳しくはそちらをご参照ください。
(3)ギアリング比率
『ギアリング比率』とは、「自己資本を元に何倍の他人資本を調達しているのか」を示します。従って、『ギアリング比率』は次の計算式で求めます。
計算式:ギアリング比率=他人資本(負債の部合計)÷ 自己資本(純資産の部合計)
「ギアリング比率が高い」ということは、それだけハイリスク・ハイリターン型の会社であるという見方ができます。なぜなら、稼いでいる時は収益性が自己資本だけで事業を行っているより高くなり、逆の時はそれだけ返済金と金利がかさむことになり、他人資本に依存した健全でない経営だと言えます。金融機関はこの比率が低いほど、「企業財務の安定性が高い」と言う評価をします。因みに平成17年度の中小企業業種別では次の通りです。
建設業  382% 製造業396% 情報通信業314% 運輸業495%
卸売業  490% 小売業512% 不動産業671%  飲食宿泊業604%
サービス業355%
どの業種もし本気の4倍から6倍程度の他人資本があるということになります。例えば、資本金が1,000万円の場合、4,000万円から6,000万円の他人資本があるということですので、自己資本比率は20%~14%だということになります。『ギアリング比率』の詳細については「債務償還能力は大丈夫か③」で説明してありますので、詳しくはそちらをご参照ください。

融資申し込みできる余地を改善するには
融資申し込みをする直前になって、財務指標を突然、良くするということはできません。できることと言えば、具体的な担保力を示すことか、これからのことを「説得力」を持って説明することだけです。担保力は別として、ではどうすれば「説得力」を持ってこれからのことを説明できるのでしょうか。
それは「経営改善計画書」なるものを作成することです。しかし重要なことは数値計画ではなく、その根拠となる将来の事業プランであり、その強い決意と実行力です。具体的には次のような手法でまとめて行きます。
(1)現状認識
隠しても仕方ありません、問題点を正直に洗い出す。
(2)改善方法
問題点を克服するために、事業内容と財務内容に分けて改善方法を端的にまとめる。
(3)収益改善
翌期どのようなことを行い収益改善するのかまとめる。これが数値計画の基礎となる。
(4)アクションプラン
その計画をどのようにして確実に実行していくのか、まとめる。

何度も言いますが、時代は大きく変わり、『膨張の時代』から『収縮の時代』に入ったのです。つまり「これまでと同じことをやっていてはダメだ」ということです。会計資料を読み、自社の現況を把握し、改善の方向を明確にすることが、その基本となります。いままでは確かに、会計資料が少々読めなくとも市場が膨張して行きましたから、さほど困ることになりませんでした。が、いまは市場が収縮して行く時代ですから、「会計が読めない」と経営の危機がそこに迫っているのに気づくこともできず、表面化した時には「倒産」ということから逃れられることは出来なくなります。時代は違っているのです。自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。

次回もお楽しみに・・