593.実務的な経営分析 固定資産

2022年11月27日

 自社の固定資産の状況を読む

製造販売や製造卸などが中心とはなるが、設備を持って事業をしている場合はこの固定資産の状況を読むことが重要だ。

固定資産とは文字とおり、キャッシュ化されるまで長い時間を要する固定的に運用される資産のことだ。

従って、思い切って設備投資をしても、それが資金として回収できるのは先のことになる。

その長い間に、経営環境なども変わる可能性があるので、しっかりした「設備投資採算計画」を策定して、

設備投資資金の資金繰りをすることが重要だ。

 

固定資産は会計的に、有形・無形・投資その他の3つに分けられているが、ここでは一般の中小企業を念頭に説明をするので、

「固定資産=有形固定資産」と考えて説明をする。

その有形固定資産には、設備など劣化していく資産である「償却資産」と、劣化しない土地や骨とう品などの「非償却資産」が

あるが、ここでは償却資産を念頭に説明をしている。

 

(1)固定資産の概況を読む

そんな固定資産だが、その運用概況をざっくり読む方法としては、「固定資産割合」と「固定資産回転率」が上げられる。

「固定資産割合」とは、総資産に占める固定資産の割合だ。

固定資産割合=固定資産÷総資産×100

 

ビジネスにはさまざまあり、またそれぞれにおいて、いろいろなタイミングがある。

従って、一概にどのくらいの固定資産割合がいいとは言えない。

しかし、総資産のバランスから考えれば、多くても総資産の5割以下に固定資産は抑えたいところだ。

ビジネスの要点は「如何に回転が速い資産に運用するか」というところにあるからだ。

 

そこで、固定資産の回転率も見る。

「固定資産回転率」とは、固定資産が何回転しているのか、つまり、何倍の売上を上げてるのかということだ。

固定資産回転率=売上高÷固定資産

 

固定資産回転率は高ければ高いほどよいと言えるが、判断指標としては少なくとも「4倍」、できれば「6~7倍」は確保したい

ところだ。

 

(2)固定資産の資金状況を読む

次に大事なことは、固定資産の資金を読むことだ。固定資産を購入するにはそれなりのおカネがかかる。

できれば、自己資金だけで購入できればよいのだが、家計でもさまざまなローンを組むことがあるように、

ビジネスにおいても借入をして、固定資産を購入する場合が多い。

そこでまずは「固定比率」を読んでみる。

「固定比率」とは、固定資産購入資金を自己資金だけで、どのくらい賄っているのかということだ。

固定比率=固定資産÷純資産×100

堅実な経営を心掛けているのであれば、この指標は「100%以下」を目指したい。

つまり、固定資産の購入は自己資金の範囲以内で行うということだ。結果、「無借金経営」をしているということである。

しかし、事業には「機会(ビジネスチャンス)」というものがあり、この機会を逃さず設備投資しなければならないということも

ありうる。

その場合でも「50%」程度は維持したいところであり、同時に入念な「設備投資採算計画」を立案すべきであることは

言うまでもない。

 

そこでそのような場合でも常に確認しておきたいことが「固定長期適合率」だ。

「固定長期適合率」とは、固定資産購入が自己資金と長期返済負債でされているのかどうかということだ。

固定長期適合率=固定資産÷(純資産+長期借入金)×100

一般的には「購入資金」として、自己資金と固定負債とされているが、実務的は「長期借入金」と考えた方が的を得ている。

この読む方は、必ず「100%以下」でなくてはならない。

100%を超えるということは、固定資産を購入するにあたって、自己資金と長期返済負債のほかにも資金手当てをしている

ということになる。

つまり、短期返済資金も混じっているということである。

このことは、住宅を購入する際に、自己資金と住宅ローンのほかに、カードローンなども当てて購入していると想像すれば、

その異常さ気付けると思う。

住宅を購入するのにカードローンやその他消費者金融を充てる人はいない。

 

(3)設備の装備率を読む

製造販売や製造卸などにおいて、もう一つ大事な要素は設備の充実度だ。

設備の充実度が「競争優位」の原点の一つになるからだ。

このことを「労働装備率」という。

労働装備率(一人当たり有形固定資産)=有形固定資産÷平均従業員数

労働装備率とは、従業員一人当たりどのくらいの設備を整えているかということだ。

労働装備率が高い場合は従業員一人当たりに対する有形固定資産の割当てが大きく、一般的に設備投資が進んでいると言える。

では、一般的にはどの程度かと言えば、法人企業統計調査によれは、次のとおりである。

(法人企業統計調査より)

製造と非製造と比較すると、従業員数による影響で、統計上では全般的に非製造の方が大きくなる。

また規模で比較すると、規模の大きな企業の方が大きくなり、特に大企業と小規模の格差は実に6倍となる。

ということは、小規模は設備では大企業にはかなわないので、品質や小回りやきめ細かさなど『人間力』で対抗する必要なある。

 

もうひとつ大事なことは「設備生産性」だ。

設備生産性=付加価値 ÷ 有形固定資産

これは有形固定資産、つまり生産設備等でどのくらいの付加価値を生み出しているかということだ。

付加価値とは、売上総利益と捉えても良いし、正確に求めたければ「売上高ー直接原価」となる。

 

労働装備率だけを見れば、少ない従業員数で、多くの設備を持っているほうが、いいと判断できる。

一方、設備生産性だけを見れば、少ない設備で多くの付加価値を生み出しているほうがいいと判断できる。

たとえば、有形固定資産を増やせば「労働装備率」は上がるが、同時に「設備生産性」は下がる。

つまり、大切なのは、労働装備率と設備生産性のバランスということだ。

そこで「労働生産性」を見る必要がある。

労働生産性=労働装備率(有形固定資産 ÷ 従業員数)×設備生産性(付加価値 ÷ 有形固定資産)

「労働生産性」は労働装備率と設備生産性の「積」なので、これは高いほど設備を活かせているということになる。

 

(4)重要な設備投資採算計画

さて、さまざまな固定資産(設備)に関する読み方を説明してきたが、

重要なことは一般的な指標と比べることでもなく、また他社と比べることでもない。

重要なことは、どの程度の目標で今回の設備投資をしたのかという、自社の意思決定だ。

その意思決定が「設備投資採算計画」となる。

経営環境が激しく変化する現代社会、それぞれの企業規模において大きいと思われる設備投資については「設備投資採算計画」を

立案し、設備投資後も定期的にPDCAマネジメントを行うことが重要だ。

 

これからの設備投資には「設備投資採算計画」の立案とPDCAが大事!