インプル研『経営コラム(インプルリポート)』
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690.経営を高めるマーケティング⑥
帝国データバンクや東京商工リサーチによれば、昨年1年間の倒産件数は約1万件となり、2014年以降最多とのことです。
コロナ融資の影響や人手不足、後継者難、物価高など理由は色々ありそうですが、中小規模の倒産が増えていることが特徴として
挙げられます。
経営環境は複雑かつ先行き不透明はものとなっており、経営計画による舵取りと戦略性が問われていることは間違いありません。
そこで、2025年最初のコラムは、昨年紹介したもっともオーソドックスでポピュラーな戦略理論である「アンゾフの商品市場
戦略」に続き、その双璧とも言われる「ポーターの基本戦略」を紹介します。
この戦略理論は米国経営学者マイケル・ポーターが提唱する、競合に打ち勝って業界の中で競争優位を築くため競争戦略です。
きびしい経営環境の中で、企業が生き残るための位置取りや戦い方を展開し、競争に勝つための戦略フレームワークとして世界中で
活用されている戦略理論です。
ポーターは競合に勝つための戦略は次の3つに大別できると言っています。
1. コストリーダーシップ戦略
2.差別化戦略
3.集中戦略
それぞれには一貫した原理がありますので、複数の戦略を選択するのではなく、一つの戦略を貫くべきだとも言っています。
1 コストリーダーシップ戦略
(1)コストリーダーシップ戦略とは
コストリーダーシップ戦略とは、他社よりも『低価格』で商品やサービスを提供し、競争優位を獲得する考え方です。
低価格な商品やサービスを提供するためには、できる限りコストを抑えて商品やサービスを作り出す必要があります。
このコスト面でリードがとれれば、競争が厳しくなっても、自社の利益は守れるということです。
しかし、競争優位を『価格』に置きますので、技術の変化や新規参入などの環境変化に弱いという点が要注意です。
一般的に低コストを実現するためには、次のようなことが考えられます。
1.生産規模の拡大による設備投資の効率化と作業の効率化を図る。
2.間接コスト、つまり、固定費を削減する。
3.ベテラン社員などによる「経験曲線」を活用し効率化を図る。
4.技術力による独自性を持つこと。
5.報告の回数を減らすなど、組織の単純化を図る。
6.本社、本部を少数化を図り、間接人員の削減を図る。
7.経費予算管理を徹底して、冗費節減を図る。
8.チャレンジングなコスト数値目標を設定する。
9.在庫を削減する。
10.コスト削減に関する報奨制度を導入する。
つまり、徹底的なコスト削減がコストリーダーシップ戦略の裏側として必要となります。
多くの中小企業では販売単価を下げざるを得ない場合が多いので、なんとか価格を下げようと考えはします。
しかし『低価格化』はそう単純なことではなく、裏側で上記のようなコスト削減を必ずしなければなりません。
このような裏側の努力なしで低価格戦略を取ろうとすると、言うまでもなく収益悪化を招くことになります。
しかし、一旦、低コストを実現すれば、商品やサービスの価格を下げること以外にも価格を下げずに他社と同等の価格で提供して
高い利益率を上げる『高付加価値経営』に転換することも可能となります。
(2)コストリーダーシップ戦略のメリット
コストリーダーシップ戦略のメリットは、他社との価格競争において『競争優位』を確保できるということに尽きます。
しっかり原価や経費を抑えて、商品やサービスを低価格で提供することができれば、他社との価格競争は優位となります。
(3)コストリーダーシップ戦略のデメリット
逆にコストリーダーシップ戦略のデメリットは、他社との価格競争によって、自社が疲弊してしまう可能性があることです。
自社商品やサービスの価格を限界まで下げたとしても、他社が体力にモノを言わせて、それを超える低価格を提示してきた場合には
失敗するリスクが高くなり、経営が立ち行かなくなる可能性も出て来ます。
したがって、価格以外の魅力も作ることが大事です。
2 差別化戦略
(1)差別化戦略とは
差別化戦略とは、商品やサービスの独自性を強調して差別化を図り、市場の中で独自のポジションを築こうという考え方です。
自社の商品やサービスを差別化する項目は価格だけではなく、商品の機能性・品質・技術力・ブランドイメージ・顧客対応なども
ありますので、合わせてそれらをアピールすることが大事です。
差別化戦略では商品やサービスの『価値』を向上させるとともに、次のように『顧客価値』も上げていくことがポイントです。
1.お客様が認知して初めて『差別化は成り立つ』ことを認識しよう。
つまり、自社でいくら差別化できていると言っても、お客様に通じなくては意味がないということです。
2.差別化とは、お客様にとって『価値が増加する』ことであることを知ろう。
単に「他社製品とは違います!」では差別化にはなりません。あくまでお客様にとっての価値が上がるということです。
つまり、差別化とは他社とは違う独自性を生み出すことだけではなく、商品やサービスに価値があるとお客様が感じることが
大事なポイントだということです。
具体的には次のようなことを『差別化』といいます。
①その製品・サービスに、お客様にとって見える特徴があることです。
②それぞれの機能に必ず繋がりがあります。
③季節や流行りなどとのタイミングが合わないといけません。
④ターゲットしているお客様のロケーションや地域ロケーションなどとの関連性を大切にします。
⑤製品・サービスに切れ目なく品揃えが出来ていることが大切です。
⑥トータルとしてのサービスのバランスが取れていることが大事です。
その結果が評判となり、やがて『ブランド』というものを形成して行きます。
(2)差別化戦略のメリット
差別化戦略におけるメリットは、価格競争から脱却できるということです。
つまり、自社商品やサービスがお客様にとって、いわゆる『オンリーワン』という状態になることをいいます。
価格度外視で「この商品でなければダメだ」とリピーターになってもらえることが、差別化戦略成功の証です。
(3)差別化戦略のデメリット
既存顧客の囲い込みに成功したものの、そのお客様が自社商品やサービスに必要性や魅力を感じなくなって離れていったときに、
差別化戦略の大きな打撃となります。
一度離れたお客様を取り戻すことは大変難しく、また新規開拓もそう簡単にできるものではありません。
したがって、こういったお客様離れのリスクと新規顧客の開拓の難しさが差別化戦略のデメリットと挙げられますが、
考えようによっては当たり前のことで、常に小さな革新でも良いので、革新を続けなければならないということです。
3 集中戦略
(1)集中戦略とは
集中戦略には2つがあります。
1.コスト削減を図る、コスト集中戦略
2.他社との差別化を図る、差別化集中戦略
集中戦略とは、特定の狭い範疇にターゲット顧客を絞り込み、自社の経営資源を集中させていく考え方です。
コストリーダーシップ戦略や差別化戦略は、業界での競争優位を図ろうとするものですが、
集中戦略は、業界全体ではなく、その中の特定の市場に限定して戦略を遂行しようとするものです。
但し、絞り込んだ顧客市場が一定以上の規模がないと、事業として成立しません。
したがって、市場のボリュームに注意し、特に流行に左右されやすい分野では注意が必要です。
集中戦略は、特定の市場に経営資源を集中しますので、小規模企業でも『優位』を達成さえすれば、その分野への新規参入は
限定されますので、利益性は守れますが、市場を限定しているので大きなシェアは握れません。
さらにターゲット市場の特異性が無くなると、全体で優位に立つ企業との競争に巻き込まれることになるので注意が必要です。
その意味で、集中戦略だけでは戦略は成り立たないと言われおり、コストリーダーシップ戦略や差別化戦略の中で『集中戦略』が
必要であると言われています。
(2)集中戦略のメリット
集中戦略は経営資源に乏しい中小企業や零細企業にメリットが大きい戦略と言えます。
競合他社の少ないニッチな市場に特化してビジネスを展開するため、競合他社との価格競争に巻き込まれる可能性も低く、
経営資源の投入を必要最小限に抑えることできます。
大手企業が参入しづらいことも利点の一つで、長期に渡って、安定した利益を生み出す可能性も高い戦略と言えます。
(3)集中戦略のデメリット
集中戦略は大手企業が参入しづらい市場を舞台にビジネスを展開する考え方ですが、狭いだけに、大手企業がリサーチして
当該市場に参入してきた場合は負けてしまうことになります。
加えて、このような急激な環境の変化に対応しづらいことも、集中戦略のデメリットと言えます。
4 ポーターの3つの基本戦略を活用する方法
(1)コストリーダーシップ戦略の活用方法
コストリーダーシップ戦略を活用するには、企画段階から販売に至るまで、全ての工程を自社で行う方法があります。
例えば、衣料品の製造販売を行うユニクロでは企画から生産、物流、販売までを一貫して自社で行っています。
中間業者を挟まないことで流通コストを削減し、販売価格に反映させ、低価格で高品質な商品の製造に成功し、飛躍的な成長を
遂げています。
(2)差別化戦略の活用方法
差別化戦略を活用するには、初めに市場ターゲットを決めて、市場のニーズや競合他社の情報を確認し、自社の立ち位置を
検討する方法があります。
差別化戦略として効果的なのは、自社の商品やサービスをブランド化し、他社との違いをアピールすることです。
ブランド化は大企業に限った手法ではありませんが、しかし中小企業でブランド化することは一般的には難しく、時間をかけて
ブランド化を図ることが大切です。
(3)集中戦略の活用方法
集中戦略を活用するには、すでに自社が持っている技術力やブランド力が最適である市場に絞り込み、手口を広げず、
一点集中することが大事です。
たとえば、シャープは集中戦略を活用する代表的な企業と言われています。
シャープは一時は液晶技術を武器に集中戦略を取り、優れた技術開発力で他社との差別化を図ることに成功していました。
その後は、集中戦略のデメリットで紹介したように、多くの同業他社が参入してくることで、狭いだけに新規参入してきた企業との
差別化に苦慮したことはご承知のとおりです。
5 ポーターの3つの基本戦略を活用した事例
イメージしやすいように、ポーターの基本戦略を活用した有名事例を紹介します。感覚的に理解してください。
(1)コスト・リーダーシップ戦略の活用事例
①ユニクロ
ユニクロは商品の企画開発から製造販売までを一元化し、自社でこれらの作業工程を完結できる体制を構築しています。
いわゆる「ASP(製造小売業)」と言われるビジネスモデルで、こういったコストリーダーシップ戦略を成功させています。
②サイゼリア
サイゼリアは格安でありながら、品質の高いイタリアンを提供するチェーン店として知られています。
オーストラリアに自社工場、仙台にトマト農場を持ち、できる限りのコスト削減を図っています。
こういったコストリーダーシップ戦略で、価格を抑えながらも品質の高いイタリアンを提供しています。
③マクドナルド
過っては100円バーガー戦略に踏み切った日本マクドナルドも、コストリーダーシップ戦略を幾度も展開し成功させています。
マクドナルドは独自の物流システムが構築しており、品質とコストの徹底的な管理体制が敷かれています。
またマニュアルによって従業員の作業を徹底して品質と効率化を図っており、これもコスト削減へと繋げています。
(2)差別化戦略の活用事例
①スターバックス
スターバックスはサードプレイスにこだわった差別化戦略を打ち出して、成功しました。
ファーストプレイス=自宅、セカンドプレイス=職場や学校、サードプレイス=第三の居場所とし、この第三の居場所をいかに
ユーザーが快適に過ごせるかにフォーカスし、競合他社との差別化を図ってきたと言われています。
この差別化戦略がユーザーの心を掴み、世界的な人気カフェチェーン店となったと言われています。
②モスバーガー
モスバーガーは低価格路線を突き進んだマクドナルドとは全く逆の高価格路線の戦略を打ち出しました。
それが、コストをかけてでも高品質で美味しい商品をユーザーへ提供するという差別化戦略です。
値段の高い国産野菜や国産米を多用し、高級志向を定着させることで、「多少値段が高くでも食べたい」というプチ贅沢志向の
ユーザー層の心を掴むことに成功したと言われています。
この戦略によって、モスバーガーは一時、マクドナルドよりも高い成長率を叩き出したことでも注目を集めました。
③無印良品
無印良品も徹底的な差別化戦略により、競合他社を寄せ付けない存在となっています。
無印良品のロゴを見れば、ひと目で無印良品の商品だと分かり、競合他社にはない唯一無二の商品であるかのような錯覚さえ
起こります。
ここまでブランディングを成功させた背景には、「シンプルイズベスト」の企業理念があると言われています。
商品は素材重視、食品はできるだけ素のまま、パッケージも必要最小限で十分、などというこういったシンプルさが
無印良品のブランド力であり、差別化戦略に成功した要因とも言えます。
(3)集中戦略の活用事例
①ケンタッキーフライドチキン
KFCはファストフード店に分類されますが、マクドナルドやモスのようにメイン商品がハンバーガーではありません。
ファストフード店としては数少ないフライドチキンをメインに扱うチェーン店として、世界的に成功した企業です。
フライドチキンという特定の市場において集中戦略を展開し、世界各国に店舗を構えるまでになりました。
②スズキ自動車
スズキ自動車は「軽自動車」という、言わば日本国内に限定された市場において、成功を収めた企業だと言われています。
数ある車種の中でも「軽自動車」というニッチな市場に限定し、集中戦略を展開してきたことで経営資源を最大限に活かしました。
トヨタや日産、ホンダなどがセダンやワゴン、スポーツカーで、国内のみならず、世界でも売上を伸ばす一方で、スズキ自動車は
軽自動車の売上が国内最多となり成功を収めています。
③しまむら
アパレルメーカーとして知られる「しまむら」も、集中戦略にて成功を収めた企業の一つだと言われいます。
メインターゲットを20代から50代の主婦層と限定した市場において、洋服にお金はかけたくないけれど、おしゃれは楽しみたい
というユーザーのニーズに応えた、低価格路線の商品を提供することで成功を収めています。
ポーターの3つの基本戦略は競合他社に打ち勝ち『競争優位性を築く』経営戦略論であり、コストリーダーシップ・差別化・集中の
3戦略に分類されます。
コストリーダーシップ戦略とは、低コストを実現することで業界内の競争優位性を保つ戦略です。
差別化戦略とは、自社商品の独自性を強調し、他社との差別化を図る戦略です。
集中戦略とは、ターゲット市場を絞り込んで集中的に経営資源を投入する戦略でり、コスト集中と差別化集中があります。
中小小規模企業の場合、対象市場は狭くならざるを得ず、競争優位の軸も経営規模が小さいので低コスト路線は取りにくいので、
おのずと『差別化集中戦略』が基本となります。
そこでのポイントは、対象市場が狭いということを逆手にとって、お客様により鮮明な特徴を打ち出すということです。
「自社のお客様は誰か?」その問いかけがが、競争優位の第一歩となります。