537.新.財務諸表6 資産が表すもの 後編
2021年10月23日
前回は、貸借対照表で『資金運用』を表す一つである「流動資産が表すもの」を見て来ました。
流動資産とは、日々の経営の中で資金運用しているものでした。
その主なものは、現金、預金、売上債権、棚卸資産、その他流動資産であり、そのポイントは次のとおりでした。
現金 企業のポケットマネーであり、大金の現金を手元に置いておくものではありません。
預金 入出金取引を必ず預金を通せば「内部牽制」につながます。
また、資金用途別に預金を管理すれば「資金に強い企業」になれます。
売上債権 受取手形は極力受け入れないようにする。
売掛金は基本的に激しく増減するものではなく、増減が大きい場合には確認することが大切。
また、回収するまでは売掛金は資金になっていないことを理解する。
さらに、棚卸資産を含めた売買活動の『資金要調達高(資金ショート額)』を把握することが重要です。
棚卸資産 棚卸資産は支障がない範疇で極力減らすことが大事で、そのことがデッドストック対策にもつながります。
また、棚卸資産の適正管理が「優良黒字企業」への道であることも理解する。
その他流動資産 その他流動資産はなるべく発生させないことが「健全な経営」へ導いてくれる。
これらのポイントをいま一度、確認してください。
では、今回は「資産が表すもの後編」として『固定資産』を取り上げます。
1 固定資産を少し細かく見る
資産が『ワン・イヤー・ルール』によって、流動資産-固定資産ー繰延資産に3分割されているように、
固定資産も有形固定資産ー無形固定資産ー投資等その他の資産に3分割されています。
このことは前回も説明しているとおりです。
では、そのひとつひとつについて、何を表すのか見ていきましょう。
固定資産は「有形ー無形ー投資等その他」に分けられる!
2 有形固定資産とは
(1)有形固定資産
有形固定資産とは「形の有る固定的な資産」という意味ですが、具体的には設備や建物などのことです。
有形固定資産は物理的に実態があるものですが、
建物や機械などは減価償却の対象となりますので、『償却資産』とも呼びます。
土地や建設仮勘定などは減価償却の対象となりませんので、『非償却資産』とも呼びます。
有形固定資産には「償却資産」と「非償却資産」がある!
減価償却の対象になる『償却資産』には、建物、機械・装置、車両・運搬具、工具・器具・部品などがあります。
建物 事務所や営業所、あるいは店舗、工場、車庫、社宅、倉庫などです。
機械・装置 さまさまな機械や設備のことです。
車両・運搬具 普通乗用車やトラックあるいはバスなどです。
工具・器具・備品 パソコンや複合機、そしてエアコン、家電製品、家具、机、 椅子、応接セットなどです。
(2)有形固定資産の特例 『消耗品』と『一括償却資産』
固定資産でも、購入価格が10万円未満あるいは使用可能期間が1年に満たないものは『消耗品』として処理することもできます。
さらに購入価格が10万円以上20万以下のものは『一括償却資産』として、一括経費計上することができます。
10万円未満で使用可能期間が1年未満であれば『消耗品費』として計上することも可!
10万円以上から20万円以下のものは『一括償却資産』として一括経費計上が可!
一括償却の仕組みは、取得した年に一括償却資産に計上し、その後3年間をかけて、取得金額の3分の1を経費として計上します。
たとえば・・、
2021年に17万円のパソコンと10万円のデスクを購入したとします。年間合計金額は27万円となります。
これらはすべて10万円以上20万円以下のものですから、耐用年数を調べることも減価償却費を計算することもなく、
一括して資産計上することができます。
合計27万円を3年かけて経費計上できるので、27万円の3分の1=9万円ずつ、3年間は経費計上します。
なお、一括償却資産は、中小企業に限らず、ずべての事業者で適用することができます。
(3)有形固定資産の操業度と装備率
これらの有形固定資産は「生産性」と大きく関係しますので、その操業度や装備率を評価することが大切です。
有形固定資産の操業度や装備率は、売上高や従業員数などと比べて評価します。
有形固定資産の操業度=年間売上高÷有形固定資産 →『有形固定資産回転率』と呼ぶ!
有形固定資産の装備率=有形固定資産÷従業員数 →『労働装備率』と呼ぶ!
この有形固定資産回転率や労働装備率は、業種によって大きく異なります。
しかし一般的に有形固定資産の割合は、総資産の50%程度は占めることが多いので、
『有形固定資産回転率』は少なくとも4回転から6回転ほどは望みたいところです。
また『労働装備率』はある程度の装備は必要となりますが、多ければ多いほど良い!というものではありません。
それによって「いかに付加価値を生み出しているか」ということが重要ですので、設備生産性も見極めることが大切です。
※設備生産性=付加価値額÷有形固定資産
(4)有形固定資産の購入資金
また、有形固定資産の資金的な問題も問われます。
一般的に有形固定資産を購入するときは、それ相当の資金が必要となりますので、借入することが多くあります。
無理な設備投資や過大な設備投資をすると、後々の資金繰りにも支障が出て来ますので、資金的なチェックをすることは重要です。
購入資金の出所=有形固定資産÷(固定負債+純資産) →『固定長期適合率』と呼ぶ!
用語自体が難しいですが、その意味するところは単純です。
企業の有形固定資産とは、家計でいえば、住宅を購入するようなものです。
では、私たちは住宅を購入するにあたって、その購入資金をどのように考えるのでしょうか?
まず、自己資金を考えます(両親の資金援助なども含む)。
次に、住宅ローンを組みます。
それでも、それ以外に資金を求めなければならないのであれば、それは無理な住宅取得といえます。
企業の設備投資も同じなのです。
企業の場合、自己資金とは『純資産』です。
住宅ローンとは『固定負債』です。
この二つの資金調達を元にして有形固定資産を購入できていないと、それは無謀な設備投資と判断せざるを得ません。
したがって、この『固定長期適合率』は、必ず100%未満になっていないといけません。
できれば、50%、多くとも80%程度には抑えておきたいところです。
(5)次回の設備投資資金
さらに将来的な再設備投資のことも考えておかねばなりません。
どんな設備も永遠には使えません。極論すれば、購入したその時から老朽化が始まっています。いずれ入替え時が訪れます。
その意味では、設備投資は永久に行わなくてはならないものです。
したがって、平常から設備投資資金を積み立てておくことが大切です。
つまり、「毎月の減価償却費を将来的な設備投資資金として、預金で積み立ておく」ということです。
減価償却費とは将来的な設備投資資金である!
3 無形固定資産とは
無形固定資産とは、建物や機械のような物理的な形や実態をもたない資産のことで、
具体的には特許権や商標権など、主に法律上の権利などが該当します。
4 投資等その他の資産
投資その他の資産とは、長期的な利益目的の株式投資や他の企業を支配する目的で保有する有価証券、
あるいは他社に対する出資金、長期貸付金などのことをいいます。
5 特殊な会計の仕組み
(1)減価償却累計額
有形固定資産の科目として『減価償却累計額』というものがあります。
これはマイナス項目で、これまで減価償却した累計金額を表示しており、その代わり、有形固定資産は取得したときの価額が
常に表示されるように工夫されています。
この仕組みは会計を経営に活かすための仕組みであり、これがあるから各固定資産の取得金額がわかり、来たる入替のときの
必要資金がいつでもわかるようになっています。
なお、この仕組みをより活かすためにも、預金と同じように、有形固定資産も内訳管理しておくことが望ましいといえます。
また同様に、『減価償却累計額』も内訳管理しておくことが望ましくなります。
そうすることによって、あと何年先に入替しなければならないか把握することができるようになり、
同時にその取得資金もおおよそわかるようになります。
(2)リース資産
いまは、設備は購入するより、リース取得する方が多い時代です。
なのに、損益計算書でリース料を計上しているだけでは、『経営に役立たせる会計資料』にはなりません。
リースで取得した有形固定資産は、有形固定資産に『リース資産』として計上して管理すべき項目です。
ここではこれ以上詳しく説明をしませんので、詳しく知りたい方は「297.簿記の基本 リースの仕訳」等を参照してください。
経営に役立つB/Sにするためには「減価償却累計額」と「リース資産」の利用も大切です!
以上、今回は「資産が表すもの 後編」と題し、固定資産が表すものを説明しました。
このようなことをわかるようにするためには、会計処理の労力が増しますが、会計は事務作業ではありません。
『”経”営管”理”』、すなわち『経理』なのですから、それくらい時間はかけてもよいのではないのでしょうか?
それで事業を安全に運営できるのであれば、安いコストです。
次回は、P/Lへと移り、経営に資する内容を説明します。