540.新.財務諸表8 損益計算書を読む知識

2021年11月13日

前回は「損益計算書の概要」を説明しました。

大切なことはここからで、P/Lの概要を理解したうえで、「損益計算書を読む知識」を修得することです。

今回はそこを説明しますので、是非、理解してください。

 

 

1 全部原価計算と直接原価計算のちがい

いきなり難しいそうな会計用語が出て来ましたが、実務的に用語を理解すると、さほど難しいことではないことがわかります。

先入観を捨てて、「全部原価計算と直接原価計算のちがい」を理解しましょう。

 

(1)全部原価計算とは

『全部原価計算』とは、その字面のとおり、「すべての原価を原価として計算する」ということです。

「すべての原価」とは、会計が要求するすべての原価です。

会計では、原価として、商品の仕入、材料費や労務費、さらに外注費を含む製造経費を要求しています。

したがって、売上原価として販売した商品の代金や材料費に加え、

製品に仕上げるために要した人件費を労務費と、同じく製造のために要した外注費や電力代などを製造経費を計算します。

そして販売できなかったものは、『棚卸資産』として次期に繰越する仕組みになっています。

このような原価計算の仕方を『全部原価計算』といい、

この計算方法にしたがって申告書は作成すると決められていますので、決算書も同じ考え方で作成をします。

 

全部原価とは会計が要求する原価であり、商品・材料・労務・外注・製造経費を指す!

 

(2)直接原価計算とは

一方、企業として『管理会計』的に原価を捉えるとそうではなく、

自社の付加価値額を計算するために商品仕入や原材料だけを原価として計算し、常に付加価値を高めていくために原価計算を

したいところです。

そこで出てきた考え方が、『直接原価計算』なのです。

『直接原価計算』とは、その字面のとおり「直接の原価だけで原価を計算する」ということです。

 

直接原価とは外部から購入したものだけで、全部原価のうちの商品仕入と材料費だけです!

 

この原価のうえで、社内でいろいろ作業などを加えたうえで商品や製品として販売しているわけですから、

売上高から直接原価だけを引き算したものが、いわゆる自社で付けた『付加価値額』となります。

このことを、売上総利益とは区別して、『限界利益』と呼びます。

 

全部原価を差引したのが『売上総利益』、直接原価だけを差引したのが『限界利益』!

 

このあと、人件費やかけた経費を引き算したものが『営業利益』となり、全部原価計算の営業利益とも一致します。

 

仮に、それで赤字(営業損失)になっているのであれば、それはかけた手間ひまに対して、付加価値額が低いことを示しています。

したがって、さらに付加価値額を上げていくための創意工夫をしなければならないという発想になっていきます。

この考え方が『直接原価計算』であり、だから『管理会計』と呼ばれる所以なのです。

 

いかがでしょう、そんなに難しい話ではなかったですね。

さらに、この『直接原価計算』の素晴らしいところは、付加価値額を上げるためのさまざまな分析やシミュレーションができる

ところなのです。

 

 

2 管理会計としてのP/Lフォーマット

『管理会計』とは「会社の経営に有益になることを一番に考える会計」という意味でもあります。

通常の損益計算書は、会計原則や税務申告を前提にその書式が決められていますが、

管理会計の損益計算書は、自社の経営に最も役立つ書式にすることができ、定められた書式というものはありません。

自社で一番役立つと思われる書式で、P/Lを作成すればよいわけです。

 

これまで説明してきた、決算・申告のための制度会計上のP/L書式は、次のとおりとなっています。

  売上高

   △売上原価(商品仕入、材料費、労務費、製造経費)

  売上総利益

   △販売費及び一般管理費

  営業利益

   ±営業外損益

  経常利益

   ±特別損益

  税引前当期純利益

   △税金等 

  当期純利益

 

この売上と利益が、よく書籍で書かれている『収益と5つの利益』です。

しかしこれでは、直接原価や間接原価(共通原価)および人件費や経費などが様々なところで計上されているため、

シャープに会社の営業成績を示すことができません。

 

そこで、例えば、次のようなフォーマット(書式)にするわけです。

  売上高

   △直接原価(商品仕入、材料仕入)

  限界利益(付加価値額)

   △人件費(役員報酬・給与・賞与・法定福利費)

  可処分利益

   △固定費(販管費、労務費。製造経費)

  営業利益

   ±営業外損益

  経常利益

 

これなら、営業の総収益、付加価値額、人件費の分配、かけた総経費などがわかりますので、どこに問題が潜んでいるのか、

シャープに捉えることができます。

 

 

3 売上総利益と棚卸資産(在庫)の関係

売上総利益は「売上高ー売上原価」で計算されます。

また、売上原価は「期首棚卸高+期中仕入高ー期末棚卸高」で計算されます。

原価計算は難しそうに思われていますが、その本質はカンタンです。

ロジックは「初めからあったものと仕入れたものを加えて、そこから残ったものを差引く」ということです。

 

原価計算の本質は「初めからあったもの +増えたもの ー残ったもの」です!

 

したがって、期首棚卸高と期中仕入高が変わらない(確定といいます)のであれば、

 期末棚卸高が増えれば、売上原価は下がる

 期末棚卸高が減れば、売上原価は上がる

ということになります。

そうすると、

売上高も変わらないとしたら、在庫を増やすことで売上総利益は増え、在庫を減らすことで売上総利益は減る、という

在庫が売上総利益増減の弁となっていることに気づきます。

 

在庫が増えれば利益は増加、在庫が減れば利益は減少という在庫は「利益増減」に関係する!

 

だから、在庫が『決算調整』に使われるわけです。

しかし、ここで理解したいことはそんな利益調整の話ではなく、「在庫次第で黒字化できる大きな可能性がある」ということです。

ここに、再三再四ご紹介している、「優良企業とそうでない企業の岐路がここにある」という意味です。

 

販売に支障が出ない限り、在庫を減らすことが「黒字経営」の鉄則!

 

 

4 労働分配率とは

『労働分配率』という言葉も難しいそうな言葉ですが、冷静に見ていきましょう。

「労働」とは、労働者の給料と賞与、そして法定福利費のことを意味しています。

したがって、『労働分配率』とは、給与・賞与・法定福利費として、分配している割合ということです。

 

問題は、分配を計算するにあたり、「その分母は何が一番適切か?」ということです。

 売上高ですか? もちろんそれも意味があることです。売上の何割を社員・従業員に還元しているのか、大事なことです。

 総利益ですか? もちろんそれも意味があることです。粗利の何割を社員・従業員に還元しているのか、大事なことです。

しかし、これらの分母にはいずれも「真水でない」という問題があります。

 

真水とは『利益の大元』ということであり、それは『限界利益』になります。

この限界利益を算出するためにも、すでに説明した『直接原価計算』が重要となってきます。

なぜなら、『限界利益』は「売上高ー直接原価」という真水であるからです。

 

労働分配率とは限界利益(真水)に対する社員・従業員の総人件費への分配割合です!

 

これで分配率をマネジメントすると、付加価値額の何割を社員・従業員に還元しているのか、あるいは還元するのか、

ハッキリさせることができます。

ハッキリさせることで、社員・従業員も「なぜ、付加価値を高めなければならないのか?」ということがすんなりと理解できます。

 

「労働分配率」が全社一丸態勢を築く秘訣です!

 

さらに、『労働分配率』にも種類があります。

経営を担う者としては、知っておきたいところです。

 一つは『全社の労働分配率』です。        →総人件費÷限界利益×100

 二つは『社員・従業員だけの労働分配率』です。  →(給与・賞与+従業員法定福利費)÷限界利益×100 

 三つは『役員報酬の労働分配率』です。      →(役員報酬+役員法定福利費)÷限界利益×100

さらにパート・アルバイト・契約社員などが貴重な戦力となっている場合は、契約社員労働分配率も重要な指標となります。

 

社員・従業員の納得感を高めるためには「労働分配率」をマネジメントすることが大事であり、

このことが「公明正大な分配管理」にもつながり、社内モラールも上がってくる!

 

 

5 減価償却費と設備投資資金の関係

『減価償却費』は計算できなくでも、おおよその意味はなんとなく理解されているかと思います。

ただ知っておきたいことは、

減価償却費は「費」と付いているとおり、費用の一つであり、利益は減価償却費を引き算して計算されていますが、

減価償却費は他の費用とは違い、「おカネは支出していない」ということです。

少しカッコつけて言えば、「減価償却費はキャッシュアウトされていない」ということです。

 

減価償却費はキャッシュアウトを伴わない費用です!

 

たとえば、売上が1,000、費用が800(うち減価償却費100)とします。

 すると、利益は1,000-800で「200」となります。

 しかし、キャッシュは、利益の200と減価償却費の100が残ることになります。

 したがって、手元資金が利益以上にあることになるので資金繰りは楽になる! では、ないのです。

この減価償却費分の100を使ってしまうと、どうなるのでしょうか?

 

設備は使い始めた途端に、次回の入れ替えが近づいて来ているともいえます。

人間の寿命と同様、設備の寿命も「永遠」ではありません。

減価償却費とは、購入した設備の毎月・毎年の使用料と同じですから、使うのではなく、積み立てていくことが大切です。

そうすることで、次回の入替え時の『設備投資資金』が貯まることになるのです。

 

減価償却費による「資金」は使うのではなく、積み立てていくことが大事!

 

 

6 P/Lの基本戦略

このように、P/Lの読む知識はいろいろありますが、ここまででも、基本的な『戦略志向』を持つことができます。

(1)資金の源泉である『売上高』

売上高を「取引先や顧客からの支持である」と理解すれば、売上高が下がることは「危険信号の点滅」だと理解できます。

また、社員・従業員の一人当たり売上高は、社員・従業員の生活を守るための『資金の源泉』です。

したがって、これが下がるようでは、社員・従業員の生活費を増やしていくことに応えていけなくなるということになります。

このように理解することで、「売上高を減らさない方法」や「少しでも増やす方法」を全社一丸で考えることを可能にします。

 

(2)付加価値額である『限界利益』

限界利益の減少とは「価値の減少」です。

商品や製品、サービスの魅力が下がってきたということです。

そう理解すると、再び付加価値に磨きをかけることや新しい付加価値を創造していくことへの発火点につながります。

 

(3)全員で創造した付加価値の分配である『人件費』

いま、いろいろと議論されていますが、日本の人件費は安すぎることは確かだと思います。

欧米と比べて、どうのこうのというわけではなく、国内を時系列で振り返ると明らかにそうです。

いま、そんな状態であっても豊かな生活が送れているのは、世帯所得の標準が『共稼ぎ』になっているからです。

このことを中小企業に限って見れば、ますます顕在化しています。

これでは「いい人材を集めたい」と願っても、とても無理な話です。

人件費を上げられない背景を経営者側から見れば、売上が上がらない、儲けが少ないなど、いろいろあるかもわかりません。

しかし、いままず改めることは、方向付け(経営革新)を発表すると同時に、結果よりも前に、その『成果』を社員・従業員に

見せることです。

よく、「いろいろ工夫をしようとしているのだけれど、社員が思ったように動いてくれない」という社長の声を聞きますが、

当たり前です。

それで会社は良くなるかもしれないことは理解できても、社員・従業員の良くなることが見えないからです。

どの経営方針も、やることや方向性は明示されていますが、そうなったらどう待遇が改善されるのかほとんど示されていません。

それは立場を変えて考えてみると、よくわかるかと思います。

 

まず待遇が改善されることを示し給料を上げる!

そして改善に取り組むという順序がいま大事なのです!

 

(4)固定費である『経費』

経費を削減することに抵抗を示す人はいるかもわかりませんが、異議を唱える人はいません。

この経費を少しでも抑えられれば、社員・従業員の分配に回せる部分も多くなり、利益の積み増しもでき、資金繰りもラクに

なります。

このことを、全員で理解することが大切です。

単なるケチケチ作戦ではなく、不必要なところは削って必要なものには使う、そして少しでも分配を増やすということです。

 

(5)一番すぐにでも使える『戦略論』

経営戦略論にもいろいろありますが、『アンゾフの製品市場戦略』が最もポピュラーな考え方であり、取り組みやすい考え方です。

詳しくは、『476.主な戦略理論 アンゾフモデル』を参照してください。

 

 

7 必要売上高のシミュレーション

売上高のシミュレーションを行う時にも『直接原価計算』が役に立ちます。

直接原価は、表現を変えると、売上高の増減に比例する『変動費』と言い換えられます。

また、変動費を除く費用は、売上高の増減に関係なく固定的に発生する『固定費』と言い換えられます。

そして、売上高から変動費を除いた部分が『限界利益』でした。

この『変動費』『固定費』『限界利益』の3つを活用して、売上高のシミュレーションが行えます。

 

売上高とは「変動費+限界利益」です!

限界利益とは「固定費(人件費+経費)+営業利益」です!

 

そうすると、次のような計算式が成立します。

 限界利益=固定費        ←限界利益と固定費が同額とは、営業利益はゼロです。つまり、『損益分岐点』を示します。

 限界利益率=限界利益÷売上高×100

したがって、

 固定費÷限界利益率=『損益分岐点売上高』  ←限界利益率で固定費を割ると、固定費だけを賄える売上高が求められます。

                        これが自社の「利益ゼロの売上高」です。

                        実際の売上高がこれを超えてれば『黒字』、これ未満であれば『赤字』です。

さらに

 損益分岐点売上高÷自社の売上高×100=『損益分岐点比率』     ←実際の売上高の状況を示します。

                                    100%であれば、収支トントンです。

                                    100%を超えているようであれば、赤字です。

                                    100%未満であれば、黒字です。

 100%ー損益分岐点比率=『経営安全率』   ←赤字になるまでの余裕率です。

                         プラスであれば、損益分岐点までの「売上減少幅」を示します。

                         マイナスであれば、損益分岐点までの「必要売上高増加率」を示します。

これらを応用して次期の必要売上高が試算できます。

 『必要固定費』=来期見込み固定費+来期目標繰越利益額   ←目標売上高試算のための利益を含めた総固定費を求めます。

                               これに借入金返済額を算入する場合もあります。

 必要固定費÷来期見込み限界利益率=『来期目標売上高』   ←必要固定費を来期の見込み限界利益率で割ると、

                               来期の目標売上高が算出できます。 

 

 

 

以上、今回は「損益計算書を読む知識」と題し、P/Lの読み方や見方などを説明しました。

ぜひ、損益計算書をただ読み飛ばすだけでなく、その中に表れているものを読み取りましょう。